あるITベンダーの技術者から以前、これ以上ないぐらいの“悲話”を聞いたことがある。この人には申し訳ないが、そのエピソードを話すと、いつでもどこでもばか受けする。私にとってはスペシャルなネタとなっている。

 簡単に言うとこんな話だ。その技術者は客から「今までにない革新的な提案をせよ」と言われ、真に受けて気合を入れて提案したところ、「前例はあるのか」と聞かれて失注した。びっくりするような論理矛盾だが、日本企業のトホホな問題が凝縮されている。エピソードを詳しく記してみよう。

 この技術者は営業担当者と共にユーザー企業に出向き、自社のソリューションを提案していた。いわゆる「提案営業」を担う人だ。ある時、大手製造業のIT部門を訪問すると、現場担当者だけでなくIT部長も同席してくれたそうだ。

 「これは脈あり」。喜んだ技術者と営業担当者は提案営業の定石通りに、この企業、そしてIT部門やシステム上の課題を探り始めた。何度か訪問して彼らの課題の整理もできたので、そろそろソリューション、つまりシステム開発を提案しようかという時に、すっかり顔なじみになったIT部長は次のように言ったという。

 「いいかい、凡庸な提案は要らないよ。最新技術を採用した、今までにない革新的な提案を期待しているよ」。これを聞いて、採算性やプロジェクトの炎上リスクを気にする営業担当者はともかく、技術者は喜び勇んだという。

 そりゃそうだ。提案営業に出るぐらいだから優秀な技術者だ。しかも、この案件を受注したら自分もプロジェクトに入る。優秀な技術者にとって最新技術を使った案件、技術的に難易度の高い案件ほどモチベーションが高まるものはない。

 この技術者はリスクを心配する担当営業や上司、経営幹部らを説得して、OSS(オープン・ソース・ソフトウエア)などの活用も盛り込んだ満身の提案書を作り上げ、客へのプレゼンに臨んだ。技術者がプレゼンを終えると、IT部長は「素晴らしい提案ですね」と口を開いた。技術者が「やった!」と思った瞬間、IT部長は次のように聞いてきた。「でも、国内に前例はあるのかね」。

 質問の意図がよく分からなかったが、技術者が「まだありません」と答えると「君、それじゃ採用は難しいよ」と一言。意味不明である。最新技術を使った挑戦的で革新的な提案を期待しておきながら、前例がないと駄目だという。もう論理がめちゃくちゃだ。

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