日本の人月商売のITベンダーは「顧客に寄り添う」というフレーズが大好きだ。私からすると極めて気色悪い言葉なのだが、SIerだけでなく下請けITベンダーの経営幹部もよく口にするから、もはや日本のIT業界のアイデンティティーと言ってよい。

 最近もこのフレーズを聞く機会があった。富士通の社長交代の記者会見で、時田隆仁次期社長が「顧客第一で顧客に寄り添ってきた半面、自らアイデアを出しながら次のテクノロジーで顧客に新しい価値を届ける部分が不得意になってきた面がある」と発言したのだ。

 この時田次期社長の発言の後半部分はまさに正確な認識だ。「自らアイデアを出しながら次のテクノロジーで顧客に新しい価値を届ける部分が不得意になってきた」のは富士通に限った話ではなく、国産コンピューターメーカー共通の大問題である。

 昭和の間は少なくともハードウエアでは、国産コンピューターメーカーは顧客に新しい価値を届けてきた。ところが間もなく終わる平成の30年の間に、新しい価値を提供する能力はどんどん失われ、ハードウエアやソフトウエア、クラウドを問わず、独自の製品サービスで顧客を引き付けて市場をつくれなくなった。

 その結果、国産コンピューターメーカーの主力事業はSIになった。つまり人月商売のSIerにビジネスモデルを変えたわけだ。ユーザー企業のシステム子会社を出自とする企業や、ソフトウエアの受託開発からスタートした企業の大半は、もとより「自らアイデアを出しながら次のテクノロジーで顧客に新しい価値を届ける」ことなどできないから、日本のIT業界は今や人月商売の一色に染まることとなった。

 要求に応じてシステムをつくる人月商売である以上、ユーザー企業からシステムに関する「ご用」を聞く必要がある。つまりご用聞きだ。SIerはもちろん多重下請け構造のIT業界では、下請けITベンダーも全てご用聞きとなる。業界を挙げてご用聞きにいそしむのが人月商売のIT業界の実態だ。

 で、「顧客に寄り添う」ことがSIerと下請けITベンダーにとって絶対的価値観となる。顧客に寄り添ってご用を聞いていれば仕事がもらえるからだ。変形バージョンとして「絶対に逃げない」というのもある。顧客の理不尽な要求などが原因でプロジェクトが大炎上しても顧客に寄り添い続けて、顧客の信頼を得ようという考え方だ。

 だから「顧客に寄り添う」あるいは「絶対に逃げない」と人月商売のITベンダーの経営幹部が口々に言うわけだ。私からすれば「気色悪いから客に寄り添うな」である。あえて気色悪いと罵倒するのには意味がある。「寄り添う」といった情緒的な言葉を使って、今の商売を正当化しているから先に進めないのである。

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