最近、技術者の転職を支援する会社の人と酒を飲んだとき、その人が「何と言うかな、日本の企業は技術者を甘やかし過ぎのような気がするんですよ」と言い出した。意味がよく分からなかったのでポカンとしていると、その人は話を続けた。何でも「技術のことだけをやっていればよい」との条件で技術者を募集する企業が増えたそうなのだ。

 技術者が技術のことだけをやっていればよいなら、夢のような職場だ。そこで「結構なことじゃないですか」と返したところ、その人は次のように答えた。「実は、企業の採用担当者から『優秀な技術者を採用するためには、技術のことだけをやっていればよいとして募集すべきだろうか』と聞かれることが増えたのですよ」。

 なるほど、それなら確かに技術者を甘やかしている。そんな夢のような職場がもともとあるならともかく、優秀な技術者を採用するために、夢のような環境をこれから用意しようというのだから、どうかしている。就業条件として掲げた以上、嘘をつくわけにもいくまい。いったい何を求めて技術者を中途採用しようとしているのだろうか。

 転職支援会社の人は技術者にも苦言を呈していた。「技術者は視野が狭過ぎる。どんな技術がこれから有望かにしか関心が無い。しかもAI(人工知能)などバズッた技術ばかりに目がいく。世の中やビジネスの動きなどを広く知ろうとしないとキャリアアップは難しいですよ」。

 2つの話を要約するとこうだ。転職しようとする技術者の多くは技術だけ、できればAIなどの花形技術だけに携わりたいと思っており、人材不足で中途採用がままならない企業側は技術者の心情に迎合して夢のような条件を提示しようとする。でも、そんなことではうまくいかないし、技術者のキャリアアップにもつながらない。

 話が話だけに、これ以上立ち入った内容は聞けなかったが、この人が言う「日本の企業」にはユーザー企業とITベンダーの両方が含まれるようだ。さて、ここまで読んで読者はどう思っただろうか。特に人月商売のIT業界にいる技術者は転職で失敗してひどい目に遭うケースが多いので、転職支援会社のコメントというだけでうさんくさいと思った人が多いかもしれない。

 実際、この話をTwitterでつぶやくと「木村さんともあろう人がそんな話に乗っかってはいけません。人月商売のITベンダーに技術者を送り込みたい周旋業者の弁そのものでしょう」と忠告してくれる人がいた。だが、私はこの転職支援会社の人に全面的に同意だ。

 「技術者が技術のことだけをやっていて何が悪いんだ」と怒りの声が聞こえてきそうだが、はっきり言っておく。そんな夢のような職場を探すぐらいなら、宝くじで10億円を狙うほうがはるかに確率が高いぞ。

 いや、待てよ。AIのような花形技術ではなく、COBOLのような既存技術で構わないのなら、技術のことだけをやっていればよい職場はあるぞ。人月商売のITベンダーの下請け仕事だ。これなら世の中やビジネスの動きなどを広く知る必要は無い。用済みになるまで、思う存分プログラミング作業に打ち込める。

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