「システム開発プロジェクトの際、客や下請けITベンダーとのやり取りを全て文書として残すのはプロジェクトマネジャーの常識です。文書として残す主な目的は、訴訟に備えてエビデンス(証拠)を残すため。プロジェクトメンバーの士気を高めようと、『プロジェクト完遂という同じ目的を持つパートナーとして』などと奇麗事をいくら言っても構いませんが、相手が誰であれ絶対に信用してはいけません」。

 米国で大規模なシステム開発プロジェクトなどを数多く手掛けたという日本人の豪腕プロマネは、そんな話をしていた。もう10年以上前のことで、当時の私はまだ性善説に毒されていたので、「客やITベンダーとの間に信頼関係が無ければ、プロジェクトがうまく行かないのではないか」とぬるく質問した。すると「相手を信頼するという甘さがプロジェクトを破綻させるのです」との冷ややかな回答が返ってきた。

 それを聞いても当時の私は、こんなふうに解釈していた。「この人がプロジェクトに取り組んだのは米国だからだな。世界中からいろんな人間が集まってくるから、安易に信頼して痛い目に遭ったこともあったのだろう」と。そんなわけで、この豪腕プロマネの性悪説に基づくマネジメントを、日本でのシステム開発プロジェクトに適用するのは無理があると見なしていた。

 今から振り返れば、当時の私は“頭の中がお花畑”だったと反省せざるを得ない。当時はまだ、プロジェクトが破綻しても訴訟沙汰になるケースはレアだった。大概の場合、受注したITベンダーが責めを負う。「お客様と争って評判を落としたくない」との意識が強く働くせいか、ITベンダーは穏便に済ませようとした。で、「受注したITベンダーのプロジェクト体制の問題で……」などという客の怒りのコメントだけが流布することとなる。

 しかも、大規模システム開発の破綻が明るみに出ると、ITに詳しい識者らから必ずと言っていいほど「プロジェクトを成功させるには信頼関係の構築が大切」といったコメントが出てくる。プロジェクトを破綻させた張本人に仕立て上げられたITベンダーの幹部に話を聞いても、「まさにおっしゃる通り。これを教訓にお客様とのリレーションをこれまで以上に密にしていく」などと反省の弁を述べるものだから、お花畑だった私は「やはり信頼関係が重要だ」と思い込んでいたわけだ。

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