米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は2018年10月にベルギーのブリュッセルで開催されたデータ保護プライバシー・コミッショナー国際会議(ICDPPC)で基調講演に立ち、同社の取り組みと規制の必要性を語った。

 ICDPPCの舞台となった欧州では2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)が施行され、ユーザーに関するデータを取り扱う企業の責任と行動指針が示された。クック氏はこれを高く評価し、プライバシー保護規制に動いてきた国々として、シンガポールやブラジル、ニュージーランド、そして日本の名前を挙げた。そのうえで、米国で現在議論が進む連邦プライバシー法への完全な支持を表明した。

個人情報の収集は「その企業を豊かにするだけ」

 アップルはこれまで、顧客の個人情報をビジネスのために活用していない点を強調してきた。一方、SNSや検索のサービスを通じて個人情報を収集し、広告で収益を上げる企業に対しては批判を繰り返してきた。今回の講演でも同様の主張を展開した。

 私たちの好き嫌い、友人や家族、その関係性や会話、希望と恐怖、希望と夢に基づいて何千もの決定が下されています。これらのデータそのものは無害ですが、巧妙に組み立てられ、合成され、取り引きされ、販売されています。極端な場合、このプロセスによって永続的なデジタルプロファイルが作成され、企業は自分が知っているよりもさらに多くのことを知ることができるようになります。

 企業が顧客の個人情報を収集した結果、無害であったはずのデータが、しまいには有害な影響を及ぼす恐れがある。すなわち、機械的に判断された「趣向」により、個人を狭い価値感に閉じ込めてしまう。そんな脅威を予見している。そのうえで、クック氏は以下のように警告した。

 個人情報の蓄積は、それを収集する企業を豊かにするためだけに役立ちます。そのことは、私たちを非常に不快にし、また不安にするはずです。

 クック氏が描くプライバシー規制のない世界は、いわばSF映画のディストピアの風景を想起させる。2016年の米国大統領選挙では米フェイスブックの個人情報が活用され、人々の投票行動に影響を及ぼした可能性が疑われている。