米アップルが2018年9月12日(現地時間)に開いたスペシャルイベントで印象的だったフレーズが「写真の新時代(A new era of photography)」だ。iPhoneの2018年モデルからその意味を読み解いてみたい。

 カメラはスマートフォンの顔とも言える代表的な機能だ。ハイエンドの機種には写りの良いカメラが必須条件となっている。中国メーカーが老舗のカメラメーカーと組んで力を入れる一方で、一部のメーカーはサンプル写真に上位機種や他社のデジタルカメラで撮影した写真を使って欺こうとする動きも見られる。スマートフォンのカメラがそれだけ重要なことの裏返しでもあるが、許されるべきことではない。

 iPhoneのカメラは、発売当初こそ最高画質との評価を受けるが、同じ年に登場した他社のAndroidスマートフォンに僅差で敗れることが恒例となってきた。ハイエンドスマートフォンのベンチマーク(指標)のような存在となっており、おそらく今年も同様な展開を迎えるだろう。

センサーの大型化やレンズの工夫に限界

 アップルは2018年モデルのiPhoneのカメラをデザインするに当たり、これまでの光学的な手法とソフトウエア的な手法、機械学習の3つを連携させて取り組んだ。ハードウエアの制約を越えるための方法であり、アップルが指摘する「写真の新時代」はまさにこれを指していると言える。

 昨今、デジタルカメラ業界ではフルフレームミラーレスカメラの発表が相次いでいる。ニコンやキヤノン、パナソニックが新製品を発表し、これまでフルフレームミラーレスの牙城を築き上げてきたソニーを追いかける展開となった。

 これまでミラーレスカメラは小型化できる点を生かしてAPS-Cやマイクロフォーサーズといった小さなフォーマットを用意し、明るい単焦点レンズなどのラインアップを拡充してきた。センサーサイズの小ささを、レンズの明るさで補おうとしている。

 センサーサイズは光を取り込む量に関係し、大きくすれば解像力や色再現の向上、暗所での撮影に強くなるのが一般的だ。このため、小型のミラーレスと、利点の多いフルフレームセンサーの両立に向かっていると見てよいだろう。

 一方、スマートフォンではセンサーの大型化やレンズの工夫に限界がある。大型のセンサーを搭載するだけのスペースを厚さ8mm前後の端末に用意できないからだ。iPhone Xですらカメラ部分が出っ張る不完全なデザインとしているほどだ。

 アップルはこうした制約の中、センサーサイズをできるだけ大きくする努力を惜しまず続けてきた。iPhone XS/XRが搭載するセンサーは1200万画素を据え置きながら、センサーサイズを30%拡大し、1ピクセル当たりのサイズを1.4μmとした。レンズを変えていないことから、35mm換算の焦点距離は28mmから26mmへと、ややワイドとなった。

 センサーからのデータの読み出しは2倍高速化した。これにより、シャッターを切ってからのタイムラグがなくなったと説明しているが、メリットは以下のソフトウエア処理で出てくる。

写真を瞬時に生成、合成に近い

 iPhoneのカメラはシャッターを切る以外には、画面をタップしてフォーカスを合わせたり、露出を調節したりする程度の操作しかできない。

 撮影機能としては、シャッターを切った瞬間の前後1.5秒ずつの動画を同時に記録する「Live Photos」、端末を滑らかに左右もしくは上下に動かして撮影する「パノラマ」、被写体の背景をぼかす「ポートレート」、ビデオ・スロー・タイムラプスといったモード切り替え、フラッシュ、セルフタイマーも備わる。スマートフォンのカメラ機能としてはシンプルな部類だ。

 こうした機能の裏側では、実に1兆回もの処理が動いているという。A12 Bionicの画像信号処理エンジンとニューラルエンジンが連携し、センサーから得た画像を素早く解析して最適な写真を作り上げる。具体的には、「スマートHDR」「拡張ダイナミックレンジ」(30fps以下で対応)といった新機能になり、シャッターを切った瞬間にこれらの処理が行われる。

 瞬時の処理とはいえ、もはや合成写真に近い。アップルが「写真の新時代」と銘打っているのは、旧来では「写真」と認められない可能性があるからだろう。ただし、カメラメーカーが合成写真と批判するのも苦しい面がある。iPhoneは64ビットプロセッサをフル活用して1枚の写真をぜいたくに作り上げており、カメラメーカーは追随できないだけだからだ。