米アップル(Apple)で最高デザイン責任者(CDO:Chief Design Officer)を務めるジョナサン(ジョニー)・アイブ氏が、2019年末に独立する(関連記事)。同氏は「iMac」や「iPhone」、「iPad」といったアップルの主要製品のデザインを主導してきたことで著名な工業デザイナーだけに、そのニュースが「アップルファン」のみならず、米国やアイブ氏の出身地・英国などを中心にメディアでも大きな反響を呼んでいる。

iPhone XR発表時(2018年9月)のジョニー・アイブ氏(左)とティム・クック氏(右)
(出所:アップル)
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 そんなアイブ氏なだけに、同氏が多大な影響を与えたのは工業デザインの業界にとどまらない。「アイブ氏は製造業(ものづくり)に新たなトレンドをもたらした」(アップル製品に詳しいある技術者)。それは、アルミニウム合金の塊を削り出す「切削加工」という技術を電子機器製造のトレンドにしたことである。

 実際、アップルのノートパソコン「MacBook」シリーズやタブレット端末「iPad」シリーズ、スマートフォン「iPhone」シリーズといった切削加工の金属筐体を採用した機器がヒットすると、競合他社もそれに追随した。

 そもそもアイブ氏は、「金属とガラスが大好き」(前出の技術者)だという。現行機種で分かりやすいのは「iPhone XR」。筐体はアルミニウム合金とガラスを組み合わせたものである。

デザインの自由度を高めた

 アイブ氏が切削加工にこだわったとされるのは、加工精度が高く、かつ設計変更も容易で、筐体デザインの自由度が高まるからである。例えば切削加工の精度はプレス加工に比べて「少なくとも1桁高い」(前出の技術者)という。

 形状の設計変更も切削加工の方が容易だ。プレス加工の場合、筐体の形状を変更するには、金型を変える必要があるので、コストと手間がかかる。対して切削加工であれば、CNC(数値制御装置)のプログラムを変えればいいので設計変更が容易である。

 こうした利点がある切削加工だが、アップルがMacBook AirやiPhoneなどをヒットさせるまでは大量生産に適用するのは非常識で、プレスやダイカストで金属を加工するのが一般的だった。切削加工がコスト高だったからである。例えば、加工にかかる時間が長い。「プレス加工であれば数秒で作れる形状が、切削加工だと1時間かかった」(A氏)。言い換えると、大量生産には不向きとされた。

工作機械の特需を生んだ

 こうした課題に対してアップルが提案したとされるのが、大量の切削加工機を製造業者に導入してもらい、一気に多量の金属筐体を成形することだった。例えば、大手EMS(電子機器受託生産サービス)企業である台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry、通称Foxconn)が数万台規模の切削加工機を用意し、iPhoneやiPadなどに向けた金属筐体の大量生産体制を整えた。

 アップルの競合も切削加工の金属筐体を採用するようになると、切削加工機に対する需要が急速に高まった。その「特需」の恩恵を受けたのが、日本の工作機械メーカーである。さらに、工作機械のモータの駆動・制御を行うモータドライブ装置のメーカーの業績も伸びた。

 切削加工の流行は、パワーエレクトロニクス業界にも影響を及ぼした。金属を削る「ミル」部分の回転速度を高めるほど、削る時間が短くなる。すなわち、生産性が高まる。そこで、高速化に適する「SiC(シリコンカーバイド)」製のパワー半導体を導入する企業も現れた。SiCは現行のシリコン(Si)に続く次世代材料である。Siよりも高価だが、切削加工機の付加価値を高められることから、SiCを採用する機運が高まった。例えば、三菱電機はモータドライブ装置に採用した。

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