日経FinTech編集長の原 隆

 設立から1年3カ月を経て、ようやくメルカリ子会社のメルペイ(東京・港)が自身の決済サービスをお披露目した。2019年2月20日のことだ。

 発表後、低迷していたメルカリの株価は2018年11月以来となる公開価格の3000円を回復し、市場の期待が高いことが見て取れる。メルペイの決済サービスはフリマアプリ「メルカリ」の売上金をお店などで使えるようにするというもの。メルカリの年間売上金5000億円がメルペイを通じて市中に流通し始めるのだから、そのインパクトは大きい。

激変する環境下での船出

 メルペイは2月13日、まずiOS端末先行で決済サービス「メルペイ」を開始した。三井住友カードと提携し、非接触型決済サービス「iD」に対応。メルカリの売上金をiDに対応する全国90万カ所で利用できるようにした。3月中にはQRコード決済やバーコード決済にも対応し、利用可能スポット数は135万カ所へと拡大する。JCBやKDDIとも提携するなど、加盟店開拓においても万全な体制を整えてきた。

 メルペイにとってサービスインするまでの約1年3カ月は長かったのだろうか、短かったのだろうか。少なくとも断言できるのは、この間、決済領域にはめまぐるしい変化が起こり続けたということだ。

 銀行もインターネット企業もITベンダーも、次々とQR決済サービスやソリューションの提供を始めた。極め付きは、2018年10月にソフトバンクとヤフーが合弁で立ち上げたPayPayの始動だ。大規模なキャンペーンが繰り広げられるのを横目に、メルペイの開発チームは焦燥感に駆られたに違いない。

 メルペイは2018年の夏、一瞬だがリリースする気配を見せたことがある。だが、結果的にはそのタイミングを見送り、開発を続行した。この間、どのような方針転換があったのかは分からない。だが、満を持しての投入だけあって、プロダクトの完成度は高い。ある銀行関係者は取材に対し、こう漏らした。「早速使ってみたが、我々にこれは作れない。これがIT企業のUX(ユーザーエクスペリエンス)なのかと感嘆せざるを得なかった」。

 だが、筆者はプロダクトのUXよりも、むしろ注目すべきはメルペイの「冷静な眼」だと思っている。世の中の潮流を捉え、読み解き、自らのプロダクトやメッセージに反映させていく。刻々と変わる業界だからこそ、読み間違えると取り返しのつかないミスにつながってしまう危険をはらんでいる。メルペイはじっとこの環境変化に対峙し続けてきた。

名を捨てて実を取る現実解を選択

 メルペイが最も他の決済手段と一線を画しているのは、自身の「メルペイ」というブランドに対するこだわりを捨てた点だ。既に広く使われている「iD」のインフラに乗ったことで、加盟店と利用者双方の導入負荷をほぼゼロにした。

 ただでさえ、雨後のたけのこのように決済サービスが生まれており、加盟店の現場からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。現場のオペレーションが複雑化していくなか、メルペイは利用者に対して決済サービスを使う場合は店員に「iDで」と伝えるよう促している。極めて現実的な解を選択したといえる。

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