子供を育てていると、否が応でも気になるのが「進路」。筆者自身は地方出身で小・中・高と公立に進むのが普通だとばかり思っていた。中学受験も小学受験もある東京の進学事情はもはやカオスである。暇を見つけては、編集部内の先輩記者たちに受験事情を聴いている。よく薦められるのが「中学受験によって大学受験対策が手厚い中高一貫校に入れ、難関国公立大学に入学させる」というコース。トータルではコストを抑えられるという。

 一方、編集部でひそかなブームとなりつつあるのが高等専門学校(高専)だ。以前インターンに来た高専出身の学生によれば「高専卒の段階で引く手あまた」だそうで、大学編入へのチャンスもある。大学に対して危機感を持つ企業は少なくない(関連記事「日本電産・永守氏が激白、大学改革で『英語や人間性も徹底的に鍛える』」)。「名ばかりの大学に行かせるよりも、高専で実学を身に付けて社会に出たほうが役立ちそう」と思ってしまうが、当然同様に考える人も多く高専も難関校が増えているようで悩ましい。

 “大学への評価ダダ下がり”な筆者だが、それでも「やっぱりスゴイ大学」と感じたのが東京大学(東大)である。「何をいまさら当たり前のことを」と言われそうだが、大学などの教育機関同士で比較したのではなく、最近取材しているベンチャー企業が皆「東大発」だったことに結構な衝撃を受けたのだ。ペプチドリームやユーグレナといった有名どころの東大発ベンチャーはもちろん知っている。ただ、筆者は普段自分が取材する電機関連では「大企業などで社会経験を積み、その経験をいかしつつ自分のアイデアや技術で勝負するベンチャー企業が強いのではないか」との仮説を持っていたのだ。

 ところが、筆者の担当分野内として取材した“たまたまベンチャーだった企業”について思い返してみると、音声認識技術のフェアリーデバイセズやインクジェット印刷回路基板のエレファンテック、スマートアパレルのXenoma、レコメンドサービスのpopInなど、多くの企業が「東大発ベンチャー」だったことに今更ながら気付いたのだ(関連記事「ダイキンが東大発ウエアラブル端末採用、現場の熟練者不足に数十万台導入を想定」「インクジェットで作るプリント基板にセイコーエプソンらが18億円出資する3つの理由」)。もちろん社会経験を積んだ上で起業しているところもあるが、むしろ「就職すれば出身大学なんて関係ない」という考え方を打ち砕かれた状態である。

 なぜ東大発ベンチャーはこうも目立つのだろうか。まず、大学発ベンチャーに限れば「東大発ベンチャーがぶっちぎりで多いから当然」とも言える。経済産業省の2018年度の「大学発ベンチャー調査」によれば、大学発ベンチャー2278社のうち、東京大学は271社で、2位の京都大学(164社)、3位の筑波大学(111社)に大差をつけている。なお、上位の大半は国立大学が占めている。地方国立大学出身者のやっかみとして、国公立大学中では、東京大学の学生数が約2万7000人(大学院生含む)と最大であることを指摘しておきたい(筆者は学生時代に体育会の運動部に所属しており、学生数という母数が多く、さらにマネージャーなどとして近隣女子大なども巻き込める東京大学はかなりうらやましい存在だった)。

 ただし、単なる学生数という意味では私立大学の方が上だ。例えば東京大学よりも学生数の多い慶應義塾大学(約3万4000人)や早稲田大学(約5万2000人)のベンチャー企業数は約80社で、一連の国立大学より少ない。とすると次に考えられるのは、大学そのものの資金力の影響である。東京大学は国立大学運営交付金などにより国費から約853億円、受託研究や寄付金などによる外部資金約620億円を得ているという(平成30年の決算概要)。国立大学の中ではおそらく最大の国費を獲得しており、私立大学は授業料などで稼いでいるとはいえ、やはり東京大学の予算規模は大きい。特に理工系の実験設備などには小さくない差が生じるだろう。

 学生の高い学力に加えて、日本国内では最も充実した設備とそれを使った研究――これを企業が放っておく訳がない。東京大学側が積極的な対応をしていることもあり、最近では東京大学と連携する企業が相次いでいる。ソフトバンクグループやダイキンなど、こぞって企業が連携協定などを結び始めた。半導体製造大手の台湾TSMCとの連携は、東京大学に窓口を設け日本企業に最先端プロセスへの門戸を開放する代わりに、東大での基礎研究を求めたようにもみえる(関連記事「東大とTSMCが大規模提携、日本企業に最先端プロセス半導体開発の光再び」)。

 ベンチャー企業の場合、「東大」のネームバリューゆえに投資を集めやすいという点もあるだろう。けれども、実際に取材しているとそれだけとは言えない印象を受ける。

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