記者になって20年以上の月日が流れたが、2018年は筆者にとっての転換点になった。入社以来、長らく紙の雑誌を作ってきたが、2018年はネット媒体専属になり、働き方が変わった。

 2018年2月に「日経 xTECH」を立ち上げ、同時に誕生した日経クロステック編集部は、当社のテクノロジー系メディアに所属するメンバーが100人以上集まる巨大組織になった。筆者もその一員だ。顔ぶれの多くは、これまで同じ会社にいながら一度も一緒に仕事をしたことがない記者たち。彼ら彼女らと初めてチームを組み、筆者自身が異なる専門知識を持つ同僚と「クロス」して働くようになった。

 今まで交流がなかった記者たちとの共同作業は楽しかった。大きな編集部を見渡せば、「その企画やってみたら」と後押ししてくれる人がいたり、ある分野では筆者より圧倒的に詳しく何かと相談に乗ってくれる人がいたり。何より、筆者が興味を持っている話を面白がって聴いてくれる人が大勢いた。仲間が増えると、関心の幅も広がる。

 そうした会話の中から、筆者は2006年設立のエンジニア集団、Rhizomatiks(ライゾマティクス)を追いかけると決めた。個人的には何年も前からずっと注目してきたライゾマの話を編集部内でしてみると、興味を示してくれる記者が何人もいた。そのことが筆者の背中を強く押してくれた。

 日経 xTECHは扱える話題の範囲が非常に広い。最近でいえば、筆者はライゾマが関わった、スマホゲーム「ポケモンGO」の関連イベントの記事を書いた。雑誌の編集部にいたころには、なかなか書けない話だ。

 いつの間にか、筆者は自らの体験記ばかり書くようになっていた。自分を「主語」にした記事を数多く執筆したのも、筆者にとっては2018年の大きな出来事。自由度が高いネット媒体だからこそ、体験記を書きやすいという側面がある。そして仕上がれば、すぐに掲載できるスピード感が心地いい。

ライゾマの取材でテクノロジーの可能性と限界を知る

 ライゾマについては、記事にしていないネタがたくさんある。それは、取材というよりも自分の趣味であり、見聞を広げるため個人的にライゾマの仕事ぶりを見たり体験しに行ったりしたものが多いからだ。プレスとして参加するのではなく、休日に自分の時間を使って出かけたものがほとんど。有料のイベントはもちろん、自腹で参加した。

 筆者がライゾマを追いかけたのは、同社の成果物を見ていると最新テクノロジーの可能性が分かってくるからだ。斬新な技術は(軍需を除けば)エンターテインメントの世界に最初に入り込んでくる。

 同時に、話題のテクノロジーが抱える現時点での「限界」も透けて見える。あるときから、そのことに気付いた。ITの世界に身を置く記者の1人として、ライゾマの動きをウオッチしておくことには意味があると、筆者は考え始めた。

 そうした中、「2018年に最も印象に残った取材(体験)は何か?」と聞かれたら、筆者は迷わず、Rhizomatiks Research(ライゾマティクスの研究開発部門)が主催したダンスパフォーマンス作品「discrete figures(ディスクリート フィギュアズ)」を挙げる。作品の完成度の高さはもちろんだが、この1年に話題になったテクノロジーの力を限界まで引き出していると言ってもいい。

ダンスパフォーマンス作品「discrete figures(ディスクリート フィギュアズ)」。本物のダンサーと、機械学習で生成したバーチャルなダンサーが「共演」
(撮影:竹下 智也)
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 筆者はこのダンス公演を2回見たが、記事にはしていなかった。そもそも取材目的で鑑賞したわけではないし、記事を書くにしてもタイミングを逸してしまった。しかし、2018年を振り返る年末の今こそ、記事にするときが来たと感じた。

 日本公演は、2018年8月31日から9月2日までのわずか3日間。実際に見た人は限られる。あれから3カ月以上が過ぎ、既に話題は去ったかに思えた。しかし2018年11月、discrete figuresはスペインのバルセロナとマドリードで上演され、再びニュースになった。「日本スペイン外交関係樹立150周年記念事業」のクロージングイベントに選ばれたのだ。2018年の日本を代表する演目として、作品の価値が認められた。

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