水産業でITの普及が進まないと言われるのはなぜか。魚が大好物である筆者には当初からの疑問だった。むしろ、個々の技術の発展を見れば、決して他産業と比べて取り組みが遅れているような印象はない。

 例えば、超音波を使い魚を探し出す「魚群探知機」。最近は魚の居場所ばかりか、浮袋の有無を判別して魚種まで特定する技術が登場している。

 一体、課題は何なのか。関係者に話を聞くと、水産業における「データ活用の難しさ」が見えてきた。本記事では養殖業の話を中心にお伝えしたい。

データ集めに一苦労

 日本の漁業は順風満帆とは言い難い。農林水産省によると、2016年における漁業・養殖業の産出額は1兆5856億円。1982年のピーク時から約47%減った。内訳を見ると、「遠洋漁業」や「沖合漁業」が縮小し、結果として「沿岸漁業」や「海面養殖業」の割合が増えている。

 漁業者の減少と高齢化も深刻だ。2017年の漁業就業者は約15万3000人。2003年から約8万5000人減った。年齢別に見ると、40歳以上が8割超を占める。

 ITに期待がかかるのはこうした背景がある。例えば、養殖業におけるIoT(インターネット・オブ・シングズ)の活用。ベテラン漁師の勘と経験をデータ化できれば、若手を指導しやすくなる。集めたデータをAI(人工知能)で分析すれば、効率化のヒントが見つかるかもしれない――。

 筆者は多くの水産ITプロジェクトでこのような話を耳にしてきた。ところが、一筋縄ではいかないようである。

 海面養殖の場合、例えばIoTの活用で餌代を最適化できるとの期待がかかる。まず、海水にさらしても壊れない、信頼性の高い計測システムを構築することが必要だ。データを収集し、魚の生育に大きく影響する要因を突き止める。当然ながら、予算には限りがある。全ての要因をセンサーで計測するわけにはいかない。

 すると、影響が大きそうな要因に目星を付けて計測システムを構築し、生育との関係を調べることになる。多くのプロジェクトが収集対象とするのは、「水温」「pH(水素イオン指数)」「酸素濃度」「給餌記録」などだ。予想がうまく当たればよいが、当たらなければ、役立つ「知見」は得られない。

 「例えば、農作物の生育には積算温度や積算日照時間が関係する。水産業はこれらに相当する指標を見極めきれていない」。福井県立大学海洋生物資源学部の細井公富准教授は養殖業におけるデータ活用の状況をこのように説明する。

 加えて、海の環境は季節ごとに変わるばかりか、毎年同じ環境が周期的に訪れるとも限らない。有益な知見を得るには、長期間にわたる計測が必要だ。KDDI ビジネスloT推進本部地方創生支援室の石黒智誠マネージャーは「十数年間は計測を続ける必要がある」と話す。同社は2017年11月から福井県小浜市らと共同で、IoTを活用したサバ(鯖)の養殖事業を手掛ける。目下、データ収集に取り組んでいるところだ。

サバを養殖するいけすに設置したセンサーを取り扱う様子
出所:KDDI
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