ベンチャー創業者、大学教授、学会のトップ…そうそうたる面々が集まっていた。

 2019年8月中旬、日本IBMの研修施設で1泊2日の合宿方式で会議が開かれた。テーマは「計算の未来と社会」。会議を企画したのは、AI(人工知能)分野の重鎮にしてPreferred Networks(PFN)フェローの丸山宏氏である。

「計算の未来と社会」参加メンバー
(出所:日本IBM)
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 ビッグデータ分析、AI(人工知能)、量子コンピューティング。ITを巡るトレンドワードは毎年のように移り変わるが、いずれも「計算」という行為を指す点は変わりない。

 21世紀が始まってからの約20年間、日常生活における「計算」の影響力は右肩上がりで高まった。米グーグル(Google)のWebサイト検索アルゴリズム「PageRank」の特許が成立したのが2001年のこと。米フェイスブック(Facebook)は友達推定アルゴリズムで会員数を増やし、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)は商品レコメンドで売り上げを伸ばした。近年では中国アリババ集団の信用スコアリングに世界が注目している。

 一方、計算がもたらす負の面も明らかになった。リクルートキャリアがWeb閲覧履歴から学生の内定辞退率を計算し、販売していた事案は、計算が個人の人生をも左右し得る現実を見せつけた。

 この合宿にオブザーバー参加した記者の目線から、そもそも「計算」とは何か、「計算」は社会にどのような便益または問題を生じさせるのか、改めて考えてみたい。

「計算」はデジタルコンピューターだけではない

 人による手計算を除けば、「計算」とはデジタルコンピューターが実行するもの――そんな常識を打ち壊すため丸山氏が会議の冒頭に紹介したのが、川崎市にある「久地円筒分水(くじえんとうぶんすい)」と呼ばれる農業用水施設だ。上流から流れてきた農業用水を下流の4つ地域に分流するため1941年に建造された。

農業用水施設「久地円筒分水」
(出所:丸山宏氏)
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 円筒状の貯水槽からあふれた水が外側の4つの区画に流れる仕組みである。上流から流れる水量にかかわらず、4つの区画がそれぞれ接する円弧の長さと同じ割合(7.415m:38.471m:2.702m:1.675m)で水を正確に分配する。水量を巡る地域間の争いが絶えなかったことから、常に一定の割合で分流する装置として設計されたという。

 「インプットした水量を一定の割合で分配するという『計算』をしていると言える」と丸山氏は説明する。分配のアルゴリズムが目で見てすぐ分かるので、それぞれの地域の納得感が得やすい利点もあるという。

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