「また美空ひばりちゃんに会えて、生きてて良かった」――。国民的歌手として一世を風靡(ふうび)し、1989年に亡くなった美空ひばり氏。その美空氏が2019年に作られた新曲を歌唱するという特別番組が、2019年9月29日のNHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」で放映された。

 もちろん、故人を生き返らせる魔法が発明されたわけではない。新曲を披露したステージに立つのは、美空氏の姿を再現した3DCGモデルだ。大きなスクリーンに映し出された彼女は、オーケストラの演奏とともに、多くの熱狂的ファンの前で、ディープラ-ニング(深層学習)と音声合成で再現した歌声で新曲「あれから」を披露した。

 曲中ではファンに語りかけるパートもあり、ファンの目には涙が浮かんでいた。まるで、本人が現代によみがえったかのようだった。

特別番組「AIでよみがえる美空ひばり」は、NHKスペシャルで放映された
(出所:ヤマハのプレスリリースより)
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歌声や楽器演奏の再現に取り組む

 “故人をよみがえらせる”、そんなSF映画のような取り組みが実現できる時代がやってきた背景には、ディープラ-ニングなどAI(人工知能)技術の進化がある。生前の本人の特徴を分析してデジタルでパラメーター化すれば、ソフトウエアでの再現が可能になる。

 今回、美空氏の歌声の再現には、ヤマハの歌声合成ソフトウエア「VOCALOID」を用いた。生前の収録音源を教師データとして、歌声とメロディー、歌詞の相関関係をディープラ-ニングで学習して、音の高さや音のタイミング、アクセント、ビブラートの有無などの特徴量を備えた統計モデル(歌声合成エンジン)を作成する。

 一度に2種類の高さの声を発する高次倍音や、歌唱時のわずかなタイミングのずれなど美空氏の特徴までを細かく再現して、歌声をよみがえらせた。

 故人の歌唱を歌声合成で再現する取り組みは、以前からヤマハ以外の企業でも実施されてきている。例えば、名古屋工業大学発ベンチャーのテクノスピーチは、演歌歌手の三波春夫氏を再現した歌声合成エンジン「ハルオロイド・ミナミ」を開発している。

 ヤマハが再現に取り組むのは、故人の歌唱だけではない。楽器の演奏も技術で再現しようとしている。2019年9月にドイツで開催された「IFA 2019」では、アーティストの演奏を自宅の楽器(現在はドラムとコントラバスに対応)で再現する技術「Real Sound Viewing」を披露した。

 実際の演奏の音源データから楽器を振動させる装置を開発し、同装置を楽器に取り付けて振動させることで演奏を再現する。まだプロトタイプの段階だが、実用化されればアーティストのライブ演奏自体を無形文化遺産として残すために有用な技術になり得る。

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