私には高校生の息子がいる。ある日、数学の模擬試験でかなり低い点数を取ってきた。聞いてみると、数学という教科に対してあまり興味が持てないのだという。彼が希望している進路や職業には数学が必要なので、困った問題だ。

 振り返ってみれば、私はこれまで息子の勉強をほとんど見てこなかった。「私にも責任の一端はあるな」と反省した。

 試しに一緒に数学の問題を少し解いてみたところ、息子は因数分解など中学レベルの数学の計算は難なくこなせる。挽回は十分に可能なようだった。そこで、高校の数学は自分が直接教えようと腹をくくった。

 まず、何らかの形で数学に興味を持ってもらう必要がある。そこで、都内の大型書店の理工系書籍のフロアに連れて行った。数学の面白さを取り上げた書籍としては結城浩氏の「数学ガール」シリーズが有名だ。ただ、数学を正面から取り上げたそうした書籍はあまりピンと来ないようだった。

 代わりに興味を持ったのが、動画コーデックの専門書である。息子は最近の子供らしくネット動画が大好きだ。見るだけでなく、動画編集ソフトを使って自分で動画の編集もする。

 そのせいなのか、動画の仕組みについても興味があるようだ。技術系同人誌の即売会である「技術書典」に連れて行ったときには、動画コーデックを解説した同人誌を自分で買ってすぐに読んでいた。

 もっとも、動画コーデックの専門書は前提知識のない人がすぐに読めるような代物ではない。中身は行列演算だらけだ。それを見て、息子は「うっ」という顔をしていた。

 そこで、専門書と一緒に「マンガ 線形代数入門」というブルーバックスの新書も購入した。行列演算を中心とした線形代数の基礎をマンガでわかりやすく解説した入門書だ。「動画コーデックをきっかけにして行列に興味を持ってもらえれば」と考えたのだ。

行列がどこにも見当たらない

 行列は高校の数学でも教えるはずだ。自分の高校時代には、行列は三角関数や微積分と並んで、高校数学で初めて習う新鮮な概念だった。今だとどの段階で出てくるのだろう。インターネットで現在の高校数学のカリキュラムを調べてみた。

 ところが行列が見当たらない。おかしい。さらに調べていき、答えにたどり着いてびっくり仰天した。学習指導要領の改訂で、2012年度に高校の数学から行列が消えていたのだ。文系数学の範囲だけではない。理系数学の範囲にも行列は一切出てこない。

 あまりに驚いて、妻にそのことを知っているかどうかを聞いてみた。すると「廃止されたときにかなり話題になったから知っている」という。知らないのは自分だけだった。これまで自分がいかに教育に興味を持ってこなかったかを反省させられた。

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