音速を超える民間旅客機の開発が世界で再び加速している。米国ではスタートアップが続々と登場する。一方、日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が長年研究するが、民間企業は及び腰だ。欧米と距離が遠い日本にとって、飛行時間を半分以下にできる「超音速機」の需要はありそうだが……。

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JAXAが2026年ごろの実証実験を目標に開発する超音速機のイメージ。50人乗りで、マッハ1.6、航続距離6500km以上を想定する。(写真:JAXA)

 超音速機の開発が加速するのは、2つの課題を大幅に改善するめどが立ち始めたことが大きい。ソニックブームと燃費性能である。英国とフランスが共同で開発した超音速旅客機「コンコルド」。1969年に初飛行した後で定期運航を始めたが、2003年に運航を終えた。2つの課題の存在が大きかったとされる。

 ソニックブームとは、超音速の機体で生じる衝撃波が地上に到達するときに聞こえる騒音のこと。コンコルドのそれは「雷音」とも評され、陸地上空を超音速で飛ぶのは許可されなかった。それが最近の研究で、コンコルドの1/10以下まで静音化する研究が進む。

 超音速機の研究に熱心なJAXAは、ソニックブームを「ドアをノックする音」(JAXAで超音速機の研究を主導する牧野好和氏)の水準に下げられそうだと表現した。計算機の性能が上がり、衝撃波と空気抵抗をともに抑える機体形状の解析が進んだことが大きい。米航空宇宙局(NASA)も、低ソニックブーム技術の研究に熱心である。

 燃費については、旅客機の成果を転用できる。超音速機のジェットエンジンは旅客機用を改良して使うとみられるが、その燃費性能は向上し続けている。加えて旅客機では、軽量化につながる複合材料の採用が進む。JAXAが2026年ごろの実証実験を目指す超音速機では、燃費性能をコンコルドの1.5~2倍に高めることを狙うようだ。

 ソニックブームと燃費の課題解決を見越すかのように、米国で超音速機開発のスタートアップが続々と登場してきた。一例が米ブーム(Boom)で、日本航空が出資したことで知られる。2025年前後の商用化を目指して、55席の超音速機を開発している。米ボーイング(Boeing)と提携した米アエリオン(Aerion)も有名で、市場が拡大している8~12席の小型機で、超音速を狙う。

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米スタートアップのブームが2024年の初飛行を目指す超音速機「OVERTURE」のイメージ写真。(写真:ブーム)

 スタートアップが挑み始めたのには、もう1つ理由がありそうだ。「60年も進化しない不自然さ」(日本航空イノベーション推進本部事業創造戦略部部長の大森康史氏)に着目することである。

 コンコルドを除く旅客機の速度は1960年ごろにマッハ数が0.8程度に達して以来、変わっていない。これほど技術の進化が激しい時代に、明らかに“不自然”である。「ゲームチェンジ」を仕掛けたいスタートアップにとって、“正常進化”にいち早く戻すだけで大きな優位性が得られる好機と映るわけだ。

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旅客機の速度は60年以上にわたってマッハ0.8程度のまま。JAXAの資料を基に編集部作成。

 例えばブームは、コンコルドのマッハ2を上回る2.2を目指す構想を掲げる。東京からサンフランシスコまで現在の約半分の5時間半で行けるかもしれない。「常識が覆る可能性がある」(日本航空の大森氏)。

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