地域経済の活性化を託して、起業支援に乗り出す地方自治体が増えている。IT関連では、福岡市が交流型のインキュベーション施設の提供や法人減税などで起業を後押していたり、島根県松江市が家賃補助や人材確保などの支援策でソフト開発企業を誘致していたりする例が有名だ。

 ただ大半の自治体にとって、IT系のスタートアップや中小ベンチャー企業は育成や誘致の対象であっても、行政で住民台帳や税を扱うような信頼性重視の情報システムを調達する相手としては見ていない。

 一方、行政システムの調達とは違うやり方で、自治体がスタートアップに活躍の場を与えられる支援策がある。地域や自治体が抱えている課題を示して、スタートアップが持つ技術や発想が通用するか、チャレンジする機会を与えることだ。

 実際にそうしたやり方で動き出した自治体がある。兵庫県神戸市だ。少子化や子育て、地域交通、医療などの地域が抱える課題をスタートアップとの協業で解決しようとするプロジェクト「Urban Innovation KOBE」を2018年4月に立ち上げた。

 このほど選考プロセスを通過したスタートアップやベンチャー企業からは、市職員らの想像を超えた提案が多数出てきた。高齢者が使う地域交通のライドシェアではスマートフォンのアプリを使わずに電話の声で車を呼び出せるようにする、年間数百万枚を目視で確認していたレセプト(診療報酬明細書)の間違い探しをAIで無人化する――といった具合だ。

神戸市が処理するレセプトは年間250万件に達する。目視で誤りを正す事務処理に多くの人手を割いている
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 「大手ベンダーを中心としたIT調達では成し得なかった、新しい可能性を感じさせるアイデアが集まった」。プロジェクトを立ち上げた神戸市の多名部重則医療・新産業本部新産業創造担当課長はプロジェクトの一旦の成果にこう目を細める。

 ある程度の失敗や試行錯誤は織り込み済みだ。一部のテーマは調達に至らないケースも想定され、参加するスタートアップにも一定のリスクはある。一方で、神戸市はコスト削減や市民サービス向上などで大きな効果が確認できれば、「最大で数千万円の予算を組んで成果物を調達する」(多名部課長)と明言する。

 自治体とスタートアップの双方にメリットを生むIT調達のモデルケースになるとの期待も込めて、プロジェクトの進捗を紹介したい。

まずは50万円でプロトタイプを作る

 神戸市がUrban Innovation KOBEを始動させ、まず「過疎地向けの交通システム」や「レセプト事務処理の効率化」など、8つの課題を設定して解決方法を公募した。8つの課題はいずれもITを使った解決方法に類型がなく、いきなり神戸市がシステム化しようとするとリスクがあるものばかりだ。

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