「工事中ですが、うちのマイニングファームを見ていきます?」。2018年8月、モンゴルに出張していた筆者は、首都ウランバートルの住宅地を訪れた。近くの公園で遊ぶ子どもの声が響き、のどかな空気が流れている。大規模な敷地に無数のマシンが稼働する仮想通貨マイニングのイメージとはかけ離れた光景を横目に、何の変哲もないマンションに向かう。

マイニングファームのあるマンション
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 玄関に入るとすぐ、鍵付きの扉が表れた。扉を開けると、地下へと階段が続いている。「段差、気を付けてくださいね」。案内されるままに階段を降り、再び表れた扉の先に別世界が広がっていた。

 目に飛び込んできたのは、薄暗い空間に浮かぶ巨大な銀色のファン設備。横には、オレンジ色のラックが4列にわたって並ぶ。銀色のファン設備からラックに向かって、円筒形の接続口が無数に突き出す。マシンの排熱をファン設備で吸い込み、マンションの外へと逃がすわけだ。

 日本ほどではないにせよ、ウランバートルも暑さを感じる季節。しかし、地下室の温度は15.8度とひんやりと冷たい空気を感じる。高温だとマイニングマシンの運転には不利だという。

 ここは日本のスタートアップ企業であるGincoのモンゴル現地法人であるGinco Mongolが建設する仮想通貨のマイニングファーム。「250~260台のマイニングマシンを置ける」と、同社の古林侑真代表取締役は説明する。

Ginco Mongolが準備中のマイニングファーム
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 Gincoは、ビットコインやイーサリアムなど複数の仮想通貨に対応したウォレットアプリを手掛けてる。日本では、仮想通貨取引所に法定通貨や仮想通貨を預けるのが一般的だが、仮想通貨ウォレットアプリを提供することでユーザー自身が資産を管理できるようにするのが狙いだ。

 2018年4月にウォレットアプリの正式版をリリースし、次に照準を合わせるのが、マイニング設備のハウジングやマシンの運用代行である。8月には、マイニングマシン大手の中国ビットメイン(Bitmain)から認定リペアライセンスも取得した。ブロックチェーンを基盤としたサービスが普及すれば、ウォレットやマイニングといったサービスのニーズが飛躍的に高まると見ている。

2000台を運用する中国事業者も存在

 モンゴルは近くて遠い国だ。歴史の授業でチンギス・ハンの偉業は習うだろうし、モンゴル出身の力士を思い浮かべる人も多いだろう。直行便を使えば、東京からウランバートルまで5時間強。シンガポールやタイより直線距離は近い。筆者が搭乗した直行便には、日本人観光客と思しきグループが複数乗り合わせていた。過ごしやすい夏の時期は、観光地としても人気がある。

 一方で、モンゴルの産業に詳しい人は意外と少ないかもしれない。遊牧民のイメージに違わず、主要な輸出品の1つは畜産品。ただし最大の資産は鉱物資源だ。石炭や銅など豊富な地下資源を抱えており、それを採掘して輸出してきた。

 採掘が国の産業を支えてきたモンゴルでは、2018年に入って、もう1つの“採掘”が広がり始めている。コンピュータの計算資源を提供、投入することで、ビットコインなどの仮想通貨を手に入れる。仮想通貨マイニングだ。

 日本企業によるモンゴル進出コンサルティングを手掛けるKRのオフィスでは、会議室のすぐ隣でマイニングマシンが稼働している。モンゴルでマイニングをしたいという顧客の声に応えたものだ。ガンバット・バイスガラン代表取締役社長は、「コンピュータ好きで資産を持つ個人を中心に、日本からのマイニング需要がある」と話す。

 マイニングでモンゴルに関心を寄せるのは、日本人や日本企業だけではない。最大勢力は中国だ。2000台のマシンを運用している中国事業者もあるという。

 2017年、中国政府は仮想通貨への規制を強化した。それと呼応するかのように、「マイニングマシンの輸入は、2017年に一気に増加したはずだ」とモンゴルの政府関係者は明かす。中国による規制強化により、マイニングで世界最大規模を誇った同国の事業者たちが続々と国境を越え始めた可能性が高い。

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