米フェイスブック(Facebook)が2019年6月18日に公開したデジタル通貨構想「Libra(リブラ)」の本質を探るべく、仮想通貨(暗号資産)の業界関係者や有識者に取材を重ねている。

 これまで霧に隠れていたフェイスブックの意図が、頭の中でようやく輪郭を帯びつつある。フェイスブックが示した様々な公開情報から意図を大胆に推測し、Libra構想が世界に何をもたらすか、懸念とリスクは何か、取材の中間報告として明らかにしたい。

各国からの集中砲火は「計画通り」?

 Libraを巡って、6月から7月にかけて各国政府や中央銀行が相次ぎ懸念の声明を出した。

 米上下両院は7月16日から2日にわたりLibraの公聴会を実施。同月18日にはフランスで開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議でもLibraが取り上げられ、参加国がLibraへの懸念を示した。

 こうした状況を見る限り、Libraは集中砲火を浴びているように見える。だが世界各国がLibraの法規制について議論を戦わせる状況は、フェイスブックの狙い通りの展開とも言えそうだ。

 フェイスブックがLibraを発表したタイミングは、日本で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議(6月8日~9日)の後、G20首脳会議(6月28日~29日)より前だった。これにより世界各国は、Libraを「財務・中銀級」ではなく「首脳級」が扱うテーマにせざるを得なくなった。

 G20首脳宣言は仮想通貨について「既存の及び生じつつあるリスクに警戒を続ける」とした。「生じつつあるリスク」という表現は財務大臣・中央銀行総裁会議の声明にはなく、関係者によるとLibraを念頭に挿入した文言だという。

 フェイスブックが1年先にローンチするサービスの構想を詳細に明らかにするのは珍しい。サービス開始までに各国首脳はLibraの法規制について議論し、準備してほしい――そんな同社の挑戦状ともとれる。

 フェイスブックがあえて政府各国に挑戦状を突き付け、集中砲火を浴びてまで実現したい世界観とは何か。インターネットが歩んだ歴史を踏まえて考えてみよう。

「銀行」という概念を破壊する

 「銀行を介さず、インターネット上でのみ流通するデジタルマネー」という構想は、インターネットに関わる技術者が長年見続けた夢だった。

 現在のEC(電子商取引)サイトが採用する決済の枠組みは、クレジットカード決済にせよPayPal経由にせよ、決済や清算の過程で必ず銀行が介在する。インターネット技術のみで、企業や個人をまたがる「価値の移転」を実現させるのは困難だった。

 インターネット上で初めて価値移転を実現したされるのが、サトシ・ナカモトが2009年に運用を始めたBitcoin(ビットコイン)と、その基幹技術であるブロックチェーンである。

 運用から10年が経過した2019年8月現在、Bitcoinの時価総額は約20兆円に上るまでに成長した。

 だがBitcoinには弱点があった。資産の裏付けなしに発行されるため、先進国の法定通貨と比べて価値の変動が激しく、日常の決済では使いものにならなかったのだ。

 2019年現在、Bitcoinは投機目的の売買のほか、「ダークネットの基軸通貨」として個人情報やマルウエアなどの違法取引に使われている。送金や決済という面に限って見れば、Bitcoinはダークサイドに落ちつつある。

 フェイスブックが提唱したLibraは、Bitcoinの弱点を克服する形で、10年ぶりに「インターネットで完結する価値の移転」の新たな可能性を示してみせた。

 ここでいうBitcoinの弱点とは「価値の変動」と「闇市場との親和性」である。フェイスブックはLibraを設計するに当たり、この2つの弱点の克服を重視したと思われる。

 Libraはドルや円など法定通貨建ての資産を裏付けとした「ステーブルコイン」とすることで、価値の変動を抑える設計になっている。さらに100社(予定)のパートナー企業からなる「Libra財団」をコインの発行主体に据えることで、法定通貨に近い信用力と安定性、非中央集権性を演出してみせた。

 Libraに賛同したパートナー企業には米ビザ(Visa)や米マスターカード(Mastercard)といった決済ネットワーク事業者が含まれる一方、いわゆる「銀行」は1行も入っていない。米ウーバー・テクノロジーズやスウェーデンのスポティファイなど「インターネットネイティブ」と呼べるような企業が目立つ。

 米国を含む多くの国では、預金を扱える銀行免許を民間企業が新規に取得するのは至難の業だ。「イオン銀行」「ローソン銀行」のように事業会社が銀行免許を取得できる日本の方が珍しい。米アマゾン・ドット・コムによる「アマゾン銀行」の構想もいまだに実現していない。

 Libra構想には「銀行が介在しない、インターネット企業による価値移転を実現したい」という、理屈を越えたフェイスブックの信念が感じられる。

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