2019年7月某日、場所は新宿駅前のビル。筆者は「リモート運転」の操縦席に座っていた。

 目の前には車両の前方・左右を映す3台の全画面ディスプレー。そこには車通りのない道路が映っている。操縦席は家庭向けのゲーム用コントローラーを改造したものだが、7軸のアクチュエーターやスピーカーを搭載し、ステアリングの反発力もある本格的なものだ。

名古屋市の某所にある車両を、ソリトンシステムズの新宿オフィスからリモート運転する筆者。走行するのは自動車教習所の跡地の私有地。目の前のディスプレーには、前方(上に後方映像)、死角となるピラーを除去して合成した左右の映像が表示されている。車両が搭載するジャイロセンサーが感知した平衡知覚やステアリングのトルク、マイクが拾った音などのデータが送信され、操縦席にフィードバックされる
(写真:日経 xTECH)
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 これはゲームでも、自動車教習所にあるシミュレーターでもない。筆者が見ているのは、名古屋市にある自動車教習所の跡地(私有地)でテスト走行を繰り返している、運転手がいないトヨタ自動車の「エスティマ」が捉えている映像だ。その車両を、遠く離れた新宿から映像を見ながら遠隔で操縦するのである。

 エスティマには万が一に備えて人が乗っている。いざという時に、ブレーキを踏むためだ。正直、操縦席に座った時は、ゲームセンターでレーシングゲームをするような遊び感覚を覚えたが、映像の向こうに生身の人間が乗っていることを考えると身が引き締まる思いがした。

エスティマの車室内の様子。2人の開発担当者が乗っている。筆者がダッチロールをした際、彼らは焦ったかもしれない。映像伝送の遅延が約1秒もあった昨年は、道路わきの草むらに車両が突っ込みそうになってブレーキを踏んだこともあるという(写真:日経 xTECH)
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軽いダッチロール発生

 いざ、発進。直進はもちろん難しくない。アクセルを踏み込むと、スピードが時速25kmぐらいまで上がった。

 「そろそろ左カーブに差し掛かります。スピードを10kmぐらいまで落としてください」と、脇に立っていた担当者から声がかかった。多少運転に慣れてアクセルを踏んでいた所だったので、慌ててブレーキを軽く踏んで減速。カーブに突入した。

 しかし、ハンドルを切った自分の感覚通りに、目の前の映像が変化してくれない。わずかな時間だが、ハンドルを切ったのに、直進し続けているように感じたのだ。そこでもう少しハンドルを左に切ると、映像はカーブに入ってやや左に行き過ぎた感じになったため、とっさにハンドルを右に戻した。

 つまり、軽い「ダッチロール」が起きたのだ。自分の意思とは無関係に“揺さぶられた”、車両に乗っている人にはちょっと気の毒に感じた。

 その後、カーブを抜けると運転に慣れてきた。直進では最高で時速35kmほどを出し、カーブでは10km以上の速度で曲がることもできた。「初めての運転でカーブを10km以上で曲がれる人はあまり見たことがありません」とのお褒めの言葉も頂いた。若い頃、ゲームセンターでレーシングゲームにそれなりに時間を費やした成果が今ごろになって出たのかもしれない。

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