「運気が下がるから会うのはやめたほうがいいぞ」。2018年の年末、いわゆる「ニート」の若者A君に会うことになり、そのことをある先輩に話すとこう押しとどめられた。ニートのA君は大手IT企業に勤める幹部の長男だ。当時26歳。この幹部の方とはプライベートを含めて親交があり、「息子を何とかしてくれないでしょうか」と託されたのである。

 先輩の指摘はもっともだった。A君は仕事もせず、長く自宅に引きこもっている状態だった。言うまでもなく引きこもりは、大きな社会問題になっている。いわゆる8050問題や最近の犯罪などは、日本全体の脅威とさえいえる。引きこもる理由は様々だが、負のオーラに包まれている場合が多い。自己憐憫(れんびん)や責任転嫁といったネガティブな言動を聞くうちに、こちらがめいってしまうかもしれない。それでも頼られると何とかしたいと思う性分なので、ひとまずA君に会うことにした。

 想定外だったのは、その幹部は当日、海外出張に出かけてしまい、筆者とA君の2人きりで会うことだった。実はそれまで2度ほどA君を交えて3人で食事をしたことがある。だが、2人だけで会うのは初めてだ。20歳近く年が離れたA君といったい何を話すのか。そもそも働き出してもらえるのか。とてつもなく大きなミッションを課せられた。

数十社面接しても受からない

 彼と過去に2度会ったのには理由があった。1度目はA君が23歳のころ。大学を卒業した2015年の秋だった。大学4年の就職活動(就活)では数十社受けたがどこからも内定が出ず、就活のために半年間卒業を遅らせた。それでも内定はもらえない。結局、卒業後は何もすることがなく、自宅でゲームばかりする日々を送っていたという。

 そんな話を大手IT企業の幹部から聞いて「よかったら今度3人で食事でもしませんか」と切り出したのだ。

 後日、初めて会ったA君は背が高くてハンサムであり、今どきの若者というイメージだった。しかし、基本的に無口。また言葉の端々に自信の無さからくる劣等感がにじみ出ていた。結局その日は父親との会話に終始してしまい、話といえば面接まではいくが内定は1つも出ないという嘆きだった。

 とはいえ、A君はまだ23歳だ。いくらでもチャンスはある。別の日にその幹部と話をすると、中学受験や大学受験で思うような結果を出せず、不本意な進学だったようだ。一方で妹は成績優秀で、有名大学の難関付属中学から大学まで進み、その後、大手自動車メーカーに就職した。親も優秀な娘の話ばかりするので、なおさらA君は劣等感を感じたのだろう。自信が無い、何をやっても駄目――。A君がそんな気持ちになっていることが容易に想像できた。

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