パブリッククラウドの導入が一段と進んでいる――。こう感じた出来事があった。クラウド導入を専業とするITベンダーに取材に行った際に、「スーツ姿で勤務することが増えている」という話を聞いたことだ。

 スーツ姿が多くなったのは、顧客であるユーザー企業の規模が大きくなったり、これまでは保守的でクラウドの導入に慎重だった企業でも採用を検討し始めたりしたからだという。「打ち合わせで先方に出向く際に、ラフな服装では浮いてしまう。そこで仕方ないから毎日、スーツ姿で出勤するようになった」とクラウド専業ベンダーのITエンジニアは苦笑していた。

 パブリッククラウドの導入がより一般的になることは、クラウド導入を手掛けるITエンジニアにとって嬉しい話かというと、手放しでは喜べないようだ。超大規模で歴史のある企業の場合、堅い服装で、意思決定は遅く、新技術の採用に慎重なケースが一般的に多いようだ。こうしたユーザー企業と付き合うのは「なかなか難しい」との本音を聞く機会も多い。

 「ユーザー企業の規模が大きくなればなるほど、そして歴史のある企業になればなるほど、プロジェクトがやりにくくなる」。こう打ち明けるクラウド導入が得意なITエンジニアもいるほどだ。

 クラウドの進化は早く、ユーザー企業が導入を検討している間にもっと優れた新機能が出てしまう、といった事態が頻繁にあるためだ。様々な機能を比較検討し、見積もりを取って、会議で議論して採用するサービスを決定する、というユーザー企業のスタイルを見ながら、「とりあえず試して、試行錯誤しながら導入を進めていきたい」ともどかしくなるクラウド導入側は多いようだ。

障害発生時、顧客に説明できない

 一方でユーザー企業側に取材をすると、いくら革新的な技術を享受でき、コスト効果があるとしても、「すぐにパブリッククラウドを導入してみましょう」とはならない、大きな理由があることが分かる。それはどんなに優れた技術でも解決できない、しがらみがあるからだ。

 しがらみを複雑にするのが、既存システムの存在だ。歴史のある企業ほど、たくさんの既存システムを抱えている。既存システムの利用者には、社内のユーザーだけではなく、顧客や取引先も存在する。

 こうした既存システムをクラウドに移行する際に、問題になるのがクラウドの可用性だ。既存のオンプレミスで構築したシステムの多くが、99.999%の可用性で動作している。一方でAWSのコンピューティングサービスである「EC2」の場合、SLA(サービスレベルアグリーメント)は99.99%と0.009%少ない。

 そのうえパブリッククラウドの場合、障害が発生した際にすぐにサービス提供事業者の営業担当者がやってきて説明してくれる、といったことはない。ユーザー企業側は障害から復旧するのを、クラウドベンダーのブログなどを眺めながら待つしかない。

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