筆者は最近、「技術的負債」という言葉に注目している。個人的には「中身が分からなくなったり、扱える技術者がいなくなったりして、手を付けられなくなった結果、仕方なく割高な運用費を支払い続けながら動かしているシステムのこと」と理解している。

 この言葉が意味することは、決して新しい話ではない。「新規3割・保守7割」とされるIT予算の使い道について、10年以上前から「新規開発に使える費用の割合をもっと増やさなければ」と、幾度となく叫ばれてきた経緯がある。

技術的負債が「2025年の崖」に直結

 なぜ今、筆者が技術的負債に興味を持ったのか。デジタルディスラプター(デジタル破壊者)に対抗するため、あらゆる業種・業態の企業でデジタル化による事業変革、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)が進みつつあるからだ。

 デジタル分野への新規投資コストの出どころが、システム部門か事業部門か経営企画部門かは別にして、デジタル分野の新しいシステムは既存システムとのデータ連携が欠かせない。すると古い既存システムの技術的負債が足かせになってしまう。

 要は企業に「技術マネジメント」の視点が無ければ、デジタル分野の新システムも遅かれ早かれ、技術的負債になっていく。

 IT業界ではすっかり有名になっている「2025年の崖(がけ)」。古くて複雑な基幹系システム、すなわちレガシーシステムが2025年を過ぎても社内に残っていると、毎年最大で12兆円の経済的損失が生まれるという。その予測を示した経済産業省の「DXレポート」でも技術的負債が取り上げられている。

 技術的負債とは「レガシーシステムの中には短期的な観点でシステム開発し、結果として長期にわたって運用・保守費が高騰している状態」を指す。

 技術的負債を抱えているということは「DXに必要な攻めのIT投資に人と金を振り向けられない」ことを意味する。

 DXレポートはこうも指摘している。「技術的負債は経営リスクと認識すべきもの。しかし現時点では、運用・保守費が将来高騰することで生じるコストを『負債』として考えている経営者が少ない」。

 最近は社内でデジタル化の旗を振るCDO(最高デジタル責任者)が脚光を浴びている。だがDXレポートの指摘に沿えば、日本企業の多くはCDOが活躍する土台、すなわち健全な技術マネジメントが整っていない。

 技術マネジメントを担う責任者は一般に、CTO(最高技術責任者)である。CTOが先々を見越して活躍しなければ、CDOを任命したところで、DXは掛け声倒れで終わる可能性が高い。

 というか、既に掛け声倒れになっている。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2015年度に調査した段階で、CTOや技術担当役員を設置している日本企業はわずか13.7%にすぎなかった。

売上高別 CTO(最高技術責任者)の設置状況
(出所:日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2016」)
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 売上高が1兆円を超える企業でも、3社に1社の割合にとどまっている。CTOの重要性が日本ではあまり認識されていない。技術マネジメントという概念が浸透していないことが、その一因といえるだろう。

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