2018年1月26日に発生したコインチェックのNEM流出事件は、これまで仮想通貨の存在を「社会実験」「イノベーションの促進」として認めていた蜜月の時代の終焉を意味する、と記者は考えている。

 金融庁は規制当局として仮想通貨取引を所管するに当たり、イノベーションを妨げないよう緩やかな規制を設けた。その方針のもと、数十もの仮想通貨交換所(取引所/販売所)が事業を始め、多様な仮想通貨を取り扱った。

 だが、仮想通貨を社会実験とみなせる時期はとうに過ぎ去った。2014年のMTGOX事件当時はギークのおもちゃに過ぎなかった仮想通貨は、2018年初頭に時価総額が100兆円近くに達した。メディアは仮想通貨の長者を「億り人」と持ち上げ、テレビが交換所のCMを流す一方、乱高下する価格に翻弄されて財産を失う人も現れた。

 仮想通貨と規制当局の蜜月は、コインチェック事件を機に終わった。仮想通貨とその交換所は、社会にもたらす便益、もっと言えば「社会に存在する意義」の有無を厳しく問われることになるだろう。

存在意義を示せなかった仮想通貨

 2014年のMTGOX事件からこれまでの4年を振り返ると、仮想通貨は様々なイノベーションを生み出した一方で、期待されたほどの便益を社会にもたらしたとは言い難い。

 ビットコイン(Bitcoin)は分裂の危機を乗り越えて今も時価総額1位の仮想通貨として君臨している。だが、価格が1BTC=100万円前後まで高騰した結果、送金1回にかかる手数料も2000~3000円と高騰。「銀行振込より安く送金できる」といううたい文句は過去のものとなり、決済手段としての優位性は失われた。

 取引記録を一時的にブロックチェーンの外でやりとりすることで手数料を減らすLightning Networkのような新技術の実験が始まっている。だが、本来のP2P送金の利便性を損ねない実用的な技術になり得るかは不透明だ。

 イーサリアム(Ethereum)に代表される、ブロックチェーン上でコードを実行するスマートコントラクト基盤の整備は、この時期に実現した大きなイノベーションの一つだろう。

 だが現時点でスマートコントラクトは、企業が電子トークンを発行して資金を調達する「ICO(Initial Coin Offering)」を除き、実ビジネスにつながる有望な用途を見つけられずにいる。

 ほぼ唯一の用途であるICOでも、集めた資金を持ち逃げするなどの詐欺が横行。エンジェル投資やクラウドファンディングなど資金調達の手段が多様化するなかで、他の資金調達手段を超える社会的便益がICOにあるとは、現時点では認めにくい。

 ビットコイン同様に新たな決済インフラを目指し、多数のアルトコインが登場した。だがその多くは、EC(電子商取引)決済や店舗決済に使おうとするユーザーコミュニティの動きがほとんどなく、投機以外の用途が見えない。

自主規制ルールの制定へ議論始まる

 国内の仮想通貨交換所はコインチェック事件を受け、セキュリティ基準を含む自主規制ルールの制定に乗り出している。

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