「AI(人工知能)革命は必ず起きる。全ての産業を再定義する」――。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が2019年2月6日の決算発表会でこう強調したように、将来の成長技術として多くの企業がAIに期待している。

決算発表会に登壇したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
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 AIがここ数年、第3次ブームとして再び注目されるようになったのは、深層学習(ディープラーニング)が登場したからだ。深層学習とは大量のデータから、人間の脳と同じように学習を繰り返していく技術。人が長い時間をかけて身に付ける能力や判断を、コンピューターでも可能にする。

 学習を繰り返してAIが育っていけば、特定の領域において人間では到底到達できないレベルまで、AIはその能力を高めることもできると期待されている。そのため深層学習で新しいビジネスをいち早く生み出そうという動きは、世界中に広がっている。結果、業界のトップ企業が全くの異業種やスタートアップの会社に取って代わられる可能性もある。孫社長がいう「産業の再定義」とは、そうしたことを意味する。

 深層学習で最も重要になるのは、学習に使うデータを集めることである。優れたAIに成長させるには、できるだけたくさんのデータを用意する必要がある。その点で圧倒的に有利な立場にあるのが、グーグル(Google)やアマゾン・ドット・コム(Amazon.com)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)といった米大手IT企業、いわゆる「GAFA」だ。

 多様なネットサービスを提供し、全世界の利用者からビッグデータをかき集めているGAFAに、個人あるいは一般企業が対抗するのはほぼ不可能。しかしいずれは誰でも、GAFAにデータ量では負けない時代が来るかもしれない。肝となるのは、ある暗号技術である。

暗号化したまま計算できる「準同型暗号」

 暗号にはさまざまな方式があるが、ここで取り上げるのは「準同型暗号」と呼ばれるものだ。暗号なので元のデータが分からないように変換して保存、送受信するわけだが、準同型暗号が持つ最大の特徴は「暗号化したまま計算ができる」という点だ。

 通常の暗号はいったん復号して元データに戻してからでないと、計算には使えない。例えば、aとbというデータを暗号化したE(a)とE(b)があったとする。普通はこのままでは計算などの処理ができない。aとbに復号してからでないと加算や乗算などはできないし、復号したものは改めて暗号化しないとE(a+b)やE(a×b)を算出することもできない。ところが準同型暗号はE(a)とE(b)の値さえあれば、そこから直接、E(a+b)やE(a×b)を計算できる。

 暗号化したまま計算ができる準同型暗号は、数学の世界では長年議論されてきた。加算または乗算のどちらか一方ならできる手法は、20世紀に見つかっている。そして2009年、ついに加算と乗算の両方ができる「完全準同型暗号」が発見されたことで、大きなブレークスルーを迎えた。

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