私は常に、IT技術者に転職を勧めている。「空前の技術者不足」とされる今は、これ以上ない転職の好機だ。「超」がいくつも付くような優秀な技術者はもとより、SIerを頂点とする多重下請け構造のIT業界で人月商売にいそしむ技術者にも、とにかく転職を勧める。技術者本人のキャリアアップになるだけでなく、社会全体に技術者が適正配置されることで、日本企業におけるIT活用の根本的な問題の解決にもつながるからだ。

 ただし、今が空前の技術者不足という風潮については、かなり疑義がある。もちろん技術者の転職市場は圧倒的な売り手市場だ。例えばパーソルキャリアが運営する転職サービス「doda(デューダ)」の「転職求人倍率レポート」によると、2018年12月時点での技術系(IT・通信)職種の求人倍率は8.77。転職希望者1人に対して8.77件の求人がある計算になる。それでも「空前の技術者不足に疑義」と言うのには理由がある。技術者への求人増は必ずしも技術者不足とイコールではないからだ。

業種別の転職求人倍率
(出所:パーソルキャリア「転職求人倍率レポート(2018年12月)」)
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 確かに求人面だけを見ると、ITベンダーやユーザー企業を問わず、技術者の争奪戦はすさまじい。特にAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)など旬な領域に精通した技術者を獲得するために、日本企業らしからぬ施策を打つ企業が相次いでいる。例えばNTTデータが2018年12月に発表した人事施策では、個人の能力や業績に応じて2000万円超の年俸を支払うとした。給与水準を世界標準に近づけることで、最新技術に秀でた技術者の獲得を狙う考えだ。

 日本企業らしからぬという点では、今でも語り草になっているのが、2017年夏にトヨタ自動車が地域限定で打った求人広告だ。

 「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」。JR南武線の駅に掲示した求人広告は多くのIT企業に衝撃を与えた。南武線沿線には富士通やNEC、キヤノン、東芝などの事業所が集まり、露骨に転職を呼び掛ける広告はいやが応でも各事業所に勤める技術者の目に留まった。その結果、あるIT企業では将来を嘱望されていた若手技術者がトヨタに転職していったという。

 保守的とされる金融機関でさえ、思い切った策で優秀な技術者の獲得に乗り出している。最近増えているのがデジタルビジネスを担う子会社の設立だ。本社での採用では人事給与制度上、高給で処遇できないので、制度の異なる子会社で採用する。本社では禁止している副業も認めるといった具合だ。もちろん、日本でも続々と誕生しているFinTechなどのベンチャー企業も中途採用に血道を上げているから、今後、技術者争奪戦がますます加熱していくのは間違いない。

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