タカタのエアバッグ破裂事故の後始末が、依然として続いている。今月(2020年1月)、タカタの管理会社が1000万個のインフレーターのリコールを米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)に申請した。自動車の安全に関するリコールで最大規模となる見込みだ。

 2000~2008年の間にタカタが製造したエアバッグの中に、インフレーターが異常破裂を起こす欠陥品があった。この欠陥品が原因の死亡者は25人以上と報じられている。結果、世界で4000万台以上が対象になる大規模リコールへと発展。1兆円を超える巨額の負債を抱えたタカタは、2017年6月26日に東京地裁に民事再生法の適用を申請して破綻した。日本で戦後最大の経営破綻だ。同社はその後、中国・寧波均勝電子傘下の自動車用安全部品メーカーである米キー・セイフティー・システムズ(Key Safety Systems)に買収され、現在はジョイソン・セイフティ・システムズ(Joyson Safety Systems)がエアバッグの製造を行っている。

タカタ製インフレーター
2000~2008年の間に製造したものの中に、異常破裂を起こす欠陥品があることが判明した。(写真:日経クロステック)
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 自動車の標準搭載品になって久しいエアバッグだが、開発者はまさに「生みの苦しみ」を経験した。日本で初めてエアバッグ・システムを実用化したのはホンダだ。1987年9月に高級車「レジェンド」に搭載した時、1975年に開発に着手してから実に12年もの月日が流れていた。今でこそ信じられないが、開発当初は「エアバッグなんて付けるとコストが上がる」「それでクルマが売れるのか?」などと、社内で随分冷たい言葉を浴びせられたと聞く。当然、社外でも「売れない製品」の開発に協力してくれる部品メーカーがなかなか見つからない中、手を挙げてくれたのがタカタだったという。こうした経緯から、ホンダの開発者はタカタにとても感謝していた。

 市場に理解者が少ない中での開発に、ホンダでもタカタでも開発者はそれこそ塗炭の苦しみを味わったかもしれない。だが、その見返りは大きかった。文字通り先行者利益を勝ち取ったタカタは、エアバッグ事業で大きく成長し、2016年3月期(2015年度)に売上高を7180億円まで増やした。ここまではタカタにとって「栄光の歴史」だった。

「原因が分からない」と言った元タカタ会長

 エアバッグの開発では、特に信頼性の確立に苦労したとホンダの開発者から聞いたことがある。当然、危険性は認識していたのだ。だが、タカタの方はどうだったのだろうか。信頼性の確保で、実は検討漏れや抜けはなかったのだろうか。

タカタ会長兼社長の高田重久氏
会見で「なぜ異常破裂が起きたのか、非常に不可解」と語った。(写真:日経クロステック)
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 筆者が「おや?」と思ったのは、民事再生法の適用を発表した会見で、タカタ会長兼社長の高田重久氏が語った「なぜ異常破裂が起きたのか、非常に不可解」「再現性が全然ない」という言葉を耳にした時だ。このとき、実は信頼性を十分に詰め切れていなかった点があるのに、そこに目をつぶって開発を進めてしまったところがタカタにはあったのではないか、と疑問に感じた。

 というのは、その会見以前の取材で、「かつてトヨタ自動車がエアバッグの開発を途中でやめた」という話を、トヨタグループの品質管理部門で長年働いた経験のある品質管理の専門家(以下、識者)から聞いていたからだ。技術の勉強やコストの把握の狙いもあり、トヨタ自動車は水面下でさまざまな開発を進めている。中には「え?」と驚くものもある。例えば、ロータリーエンジンや航空機、焼酎、芝生といったものだ。だが、これらの“変わり種”以上に、筆者はトヨタのエアバッグ開発に驚いた。なぜなら、エアバッグは自動車に必要不可欠な部品であり、事業化すれば儲(もう)かるはずのものだからだ。そのことは先のタカタの歴史における光の部分、すなわち7000億円を超える売上高が証明している。

 にもかかわらず、トヨタ自動車はエアバッグの開発を途中で断念したというのである。それはなぜか。「爆発はコントロールできないと判断したからだ」(同識者)。火薬とそれが起こす爆発の制御は簡単ではない。それをカバーする技術をトヨタ自動車は考案することもできたかもしれない。だが、「スペシャリストではない自分たちには、十分に爆発を制御することはできないとトヨタ自動車は判断したと聞いている」(同識者)。トヨタ自動車には「身の丈を知る」という言葉があり、安全性と自社の実力とを秤(はかり)に掛けて、前者を取ったのではないか。

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