2019年春に組織を刷新した東京大学「人工物工学研究センター(RACE)」が、日本のものづくりをターゲットとした産学連携を深めようとしている。もともと同センターは、東京大学元総長の吉川弘之氏が提唱した「人工物工学」を研究する全学組織として1992年に発足した。これまで人工物工学の基礎構築を行ってきたが、2019年4月、サステナビリティーを重視した次世代ものづくりに関する研究拠点とすべく工学系研究科の付属施設として新スタートを切った。現在どのような活動を進めているのか。同センターメンバーの同大大学院工学系研究科教授の梅田靖氏に聞いた。(聞き手は吉田 勝)

梅田 靖(うめだ・やすし)
東京大学大学院工学系研究科教授。1992年3月、東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同大工学部助手、講師を経て、1999年4月から東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻助教授、2005月2月に大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授、2014年1月に東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻教授。2019年4月から現職。(写真:日経 xTECH)

人工物工学とは何でしょう?同センターはどういう活動をしていくのでしょうか

 人工物工学とは、人の作った、「もの」「制度」「システム」などを研究しようというもので、「『現代の邪悪』に対抗できるものを構築しよう」との狙いで設立されました。技術の開発・普及によって、人々の生活は豊かになりましたが、一方で環境破壊や新しい病気、大事故などの新たな社会的問題も発生するようになりました。それら人が作ったものによって引き起こされる問題が吉川先生(東京大学元総長の吉川弘之氏)の言う「現代の邪悪」です。

 センターは設立から四半世紀がたち、2019年4月に新たに工学系研究科の下で産学官連携を進めようとしています。サステナビリティー、特にものづくりに焦点を当てようというのが新センターの大きなポイントです。

 同センターには現在、「価値創成部門」「認知機構部門」「実践知能部門」の3つの部門があります。価値創成部門は新しいものづくりの在り方を探るもので、デジタルを使いつつ、インダストリー4.0をうまく活用できる日本のものづくり、もの・サービス・システムの設計を研究しています。日本の強みを生かした生産システムの姿を追求します。

 実践知能部門は、人工知能(AI)を産業界、特に製造業においてうまく使いこなすために何をすべきかを研究し、産業応用の仕方を探るとともに、使いやすいAIを開発します。認知機構部門は、人が人工物を認知する過程を探るもの。人工物がどういうふうに人に受け取られるのが良いのかを探り、人にうまく受け入れられるものやシステムとしてフィードバックしていきます。

 現在、同センターではこの3部門の活動を重ね合わせることで、製造業に寄与できるのではないかと考えています。特に組み立て系のものづくりを念頭に、研究内容をシステム論やAI、IoT、ロボティクスとして社会実装していくことを目指しています。

日本型ものづくりの強みを

具体的な活動内容について教えてください

 具体的に私がいま進めているものの1つに、「ラーニングファクトリー」があります。これは、大学内に模擬工場を構築して生産のオペレーションの仕方を教育したり、研究したりするものです。デジタル化されたものづくりに対するリテラシーの高い人材を育成するという狙いがあります。欧州では、ラーニングファクトリーが盛んに研究されています。実際の工場ではできない操業条件を試すなどといったことも可能です。

 私たちはこの研究において、日本型製造業の強みを生かした生産システムのデジタル化と、製品ライフサイクル全般のエンジニアリングの統合的支援を実現する「デジタル・トリプレット」という概念を提唱しています。端的に言うと、デジタル・トリプレットとは、「サイバー」「フィジカル」「知的活動」(使いこなす人)の3要素から成るものです。いわゆるデジタルツイン(サイバーとフィジカル)に、現場の質の高い生産技術者や技能者によるカイゼンなどの知的活動を加えたものと言えます。

 デジタル・トリプレットについては、2018年ごろからドイツが進めるインダストリー4.0に対抗する概念として、どうやって日本的なものづくりの要素をデジタルツインに盛り込んでいくかという視点で研究を進めてきました。ドイツなどがトップダウンでものごとを進めていくのに対し、日本の工場は現場のカイゼンで無駄をそぎ落としていきますね。私たちが作ろうとしているデジタル・トリプレット型のラーニングファクトリーは、カイゼン活動をデジタルに乗せて、日本的なものづくりに落とし込むものです。いわばサイバー・フィジカルとカイゼンのおいしいとこ取りしようというものです。

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