IoT(モノのインターネット)が浸透すれば、これまで管理・運営に手の回らなかった空間が、効率的にモニタリングできる対象となる。既存のストックを「使い倒す」という視点で、ソフト施策による街づくりをビジネスに仕立てる展望が開ける。新たなエリアマネジメント手法の動きを追った。

 「都市の価値(バリュー)」、言い換えれば「都市力」を分析し、そのビジュアライゼーションを図るために都市空間情報を活用している1社が、日建設計総合研究所だ。国内最大手の建築設計事務所である日建設計が、「都市デザインと建築環境に関するエンジニアリングの融合」を目的に2006年に設立した。

 オープンデータである地価公示データと都道府県地価調査データを用い、同社が公表してきたビジュアライゼーションの一例が、「地価バリューマップ」(Land Value Map)だ。全国を対象とし、1983年から現在に至るまでの都市構造や都市力の変化を評価・分析するためのツールとしている。

 マップ上に表示するため、時代の変遷を含め、エリアの状況を直感的に把握できるのが特徴だ。エリア開発やプロジェクトの有効性、あるいは施策の効果などを様々なステークホルダーにとって分かりやすいものとする目的がある。

 例えば下のビジュアルは、東京の大規模開発プロジェクトが「都市力」を向上させた様子を地価の変化から示したものだ。東京以外の圏域や自治体に関しても作成している。

地価バリューマップの例。1983年、2000年、2015年の各ポイントの地価を比較し、その上下動の幅に従って色分けしている。従来は、ハード面が主体の大規模開発プロジェクトによるバリューアップが主体だったが、今後はICTを活用するソフト施策によるバリューアップのために、こうしたツールを駆使する意向だ(出所:日建設計総合研究所)
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日建設計総合研究所は2017年12月、最新版の「地価バリューマップ」を公表している。動画(YouTube)による各年の変遷なども公開している(出所:日建設計総合研究所)
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 これまで同社は、ICT(情報通信技術)を駆使するICTエリアマネジメントの研究を総務省などと続けてきた。都市空間情報の活用により、“データオリエンテッドなまちづくり”をビジネスにしようとする狙いを持っている。

 「ICTエリアマネジメントにより、まずは空間を徹底的に使い倒す。その運用をシミュレーションするなかで改善点を見つけたら、すぐに軌道修正を提案する。それこそが“本当の空間デザイン”とされる時代になる」と日建設計総合研究所の川除(かわよけ)隆広・上席研究員は語る。

 それぞれのエリアに備わる独自の価値を上げ、都市の総体として国際競争力を高めるためには、建物を含めて既存のストックを最大限かつ最適に活用する手法が課題となる。

 「こまごまとハードを改変する以前に、今在るものを使い倒すのが先決。近未来をイメージするときにハードの劇的な変化は想像し難く、むしろセンサーの設置などで運用の仕方に飛躍的な変化が起こるはずだ」と川除氏は語る。「新築の場合も、IoTレディ(モノのインターネットに対する備えがある)、ロボット・レディ(多種多様なロボットとの共存に備えがある)を重視した設計が欠かせない時代になっている」

 IoTが浸透して各種センサーの設置が当たり前になれば、コストの制約などから管理・運営に手の回らなかった空間が、一気にモニタリングできる対象となる。運用する側にとっては、保有する施設やインフラの状態、その利用者の動向を把握できる「可処分情報量」が指数関数的に増える時代が来る。

 こうした“ビッグデータ化”は、都市における様々な事象の予測や、事前の計画の最適化に貢献する。半面、KPI(重要業績評価指標)を見極め、集めた情報やそのデータマネジメントを水平展開で共有するプラットフォームをつくって効率を上げなければ、膨大な情報に追われて疲弊するばかりになる。「あくまでも、人が幸せになるためのICT活用という目標を見失わずに進めたい」と、川除氏は語る。

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