建設業の担い手不足と高齢化が深刻さを増しています。特に厳しいのが技能者。総務省の調査では、建設技能者数は1997年時点の464万人から2014年で343万人と、この時点までに3割弱減少しました。日本建設業連合会(日建連)は、このまま放置すると25年には215万人程度になると予測し、14年度に50歳以上だった技能者153万人の7割強が25年までに離職すると試算しています。

 住宅建築の分野でも今日、現場の省力化・効率化は喫緊の課題です。日経ホームビルダー8月号の特集「現場省力化で生き残る」では、こうした問題意識に基づいて、家づくりの様々なプロセスで導入が進む具体的な省力化策に焦点を当てました。壁体全体を工業化製品するといった大掛かりな取り組みから、バッテリー型工具の積極活用で現場作業の効率を高めるといった身近に導入できる工夫まで、いずれも現場の「カイゼン」による省力化・効率化を狙った取り組みです。

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 こうした取り組みを取り入れるうえで、最大のネックとなるのは「これまでのやり方」という日常の既成概念ではないでしょうか。腕に自信のあるプロほど、自らの“常識”を疑わず、新しい取り組みや考え方に接しても「うちには関係ない」と他人事として受け止めてしまいがち。反対に、規制概念にとらわれず目の前にある仕事を見つめなおすと、「カイゼン」の余地はそこかしこに存在しているのではないかと思うのです。この特集から、日常の既成概念を見直すヒントを読み取っていただければ幸いです。

 「“常識”を見直す」という視点が重要なのは、現場の省力化に限った話ではありません。家づくりのプロセス全般で同じことを言えると思います。例えば雨仕舞いや防水仕様に関する住宅技術。今年2019年6月末から7月初旬にかけて、九州を中心に激しい雨が続き、鹿児島県や宮崎県などでは記録的な降雨量を観測しました。ちょうど1年前にほぼ同じタイミングで発生し、広い範囲で甚大な被害を招いた西日本豪雨を想起した人も少なくなかったのではないでしょうか。

 「新語・流行語大賞」に「ゲリラ豪雨」という言葉が入選したのは08年。西日本豪雨などとは降雨の性質こそやや異なりますが、08年前後は、住宅のプロの多くが想定外の降雨に対して、雨仕舞いや防水仕様といった備えに従来以上の敏感さを持ち始めた時期だったと記憶しています。今号の連載「事例で分かる雨漏り修理のツボ」で取り上げた毛細管現象による雨水浸入や、同じく「現場で役立つ欠陥防止の勘所」で取り上げた施工現場の雨掛かりなどが本格的に注目を集め始めたのも同様の時期。その一方、サッシ下部での防水紙の先張りなど、現在では当たり前の施工方法や部材仕様が家づくりで急速かつ広く標準化したほか、軒の出と雨漏りリスクの関係や外壁通気工法の効用などにも多くのプロの関心が集まるようになりました。そうした点で、一種のターニングポイントと呼べる時期ではなかったかと思っています。

 しかし08年前後の時点で、近年のように全国各所で毎年、災害級の豪雨が頻発する状況を想像し得た人は、どれほどいたでしょうか。当時、日経ホームビルダー編集部に在籍していた私自身も、現状はあの頃の想像をはるかに超えています。8月号では、「使えるニュース」に6月18日に発生した山形県沖地震の記事を掲載しましたが、大型地震の頻発についても似たような印象があります。環境や状況の変化に対して、安全・安心な住環境づくりを担うプロがなすべきこと──。家づくりにまつわる技術・技能の全般で、“常識”を再検証する視点がかつてないほど求められていると思うのです。

出典:日経ホームビルダー、2019年8月号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。