標準的な設備機器を組み合わせる

 凹凸のないシンプルな総2階建てという建物の規模と平面形状は、建物内の空調負荷を減らすのに有効だ。約60kWの太陽光発電設備の設置も、年間日射量の多い浜松市という地域性や周囲に日射を遮るものがない立地条件を生かしたものといえる。

 逆に、ZEB化に際して不利な要素となっているのは建物の配置だ。従業員が主に滞在する2階の事務室は南北に長く、窓は西南に面している。西日対策は不可欠だった。ここでは2階の事務所と1階大会議室に小さめの窓を並べ、室内側に手動のブラインドを設置した。2階ではブラインドを上下に2分割し、それぞれ角度調整できるようにしている。

2階の事務所スペース。上下に2分割したブラインドはそれぞれ角度を調整できる(写真:須山建設)
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 空調や照明の設備については、標準的な機器を導入した。

 空調は高効率のパッケージエアコンと、一般的な全熱交換換気設備を組み合わせている。居室に取り込んだ空気を廊下へ回し、トイレを介して屋外へと排気する。照明は、事務室や会議室では明るさセンサーで自動調光し、廊下やトイレなどには人感センサーを採用した。

 また、2階の窓の外側上部には、庇(ひさし)に反射させた太陽光を室内の奥まで届かせる「ライトシェルフ」を設置した。約10mの室内奥まで明るさを確保し、照明エネルギーを削減する狙いだ。

南西に面した2階事務所の開口の外側にライトシェルフを設置。反射により室内の奥まで光を届かせる(写真:須山建設)
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 BCPへの対応としては、非常時用の小型発電機を用意した。普段は自家消費して残りを売電している太陽光発電も、非常時には切り替えてコンセント電源として使用できるようにしている。

 19年1月から本格稼働した新社屋は、冬と夏を1回ずつ体験した。「冬はエアコンを切っている時間帯が長く、天気が悪い日につける程度。ZEB化のメリットが大きかった。夏はエアコンの設定温度を27℃から28℃くらいにして運用していた」とアサヒエンジニアリング総務部の榑林宏紀氏は振り返る。

 19年1月から6月までの実際の消費電力はどうだったか。6カ月間に消費した電力は、3月まで行っていた工事の仮設電気使用量も含めて合計1万2864kWh。旧社屋時代の使用量を新社屋の規模に換算した2万1957kWhに比べて、41%削減した計算になる。太陽光発電による創エネルギー量2万9751kWhを含めると、旧社屋からの削減率は176%となる。

 費用対効果については、次のように試算している。

 工事に際してZEB仕様にするための投資と太陽光発電設備の設置で3250万円を費やした。そのうちの1300万円は環境省の18年度「ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業」の補助金で賄った。差し引くと、ZEB化に伴う投資額のアップ分は1950万円になる。

 これに対し、予測される電気料金の旧社屋と新社屋の年間差額は60万円、太陽光発電の年間売電額は125万円。両者を合計した年間の電気料金削減額は185万円となり、約10.5年で初期投資の向上分を回収できる計算だ。

 「この建物で得る具体的な運用実績を元に、顧客に対し、今後はよりきめ細やかな省エネ提案に結び付ける」。須山建設設計・調達ブロック設計グループの安井孝浩グループリーダーは、普及版ZEBの提案に向けた手応えを語る。

アサヒエンジニアリングの新社屋の2019年1月から同6月にかけての実績値(資料:須山建設)
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アサヒエンジニアリング社屋の建築概要データ

  • 所在地:静岡県浜松市
  • 地域区分:6地域
  • 建物用途:事務所等
  • 構造・階数:鉄骨造・地上2階建て
  • 延べ面積: 600m2
  • 発注者:アサヒエンジニアリング
  • 設計・施工者:須山建設
  • 完成:2018年11月
アサヒエンジニアリング社屋のZEBデータ(資料:環境共創イニシアチブ)
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