土木構造物の点検や管理をAI(人工知能)で省力化する技術への期待は大きい。ただし、開発に着手したり、実証実験を実施したりといった段階の技術ばかりで、「現場で使える」AIの開発は一筋縄では行かない。完成までのプロセスで、つまずきやすいのがデータ収集だ。
技術者の知識や経験を重視して仕事を進めてきた建設現場では、AIの分析に使えるようなデジタルデータが十分に蓄積されていない。そのため建設向けのAIを開発しようとすると、必要なデータの種類や収集方法を検討する必要に迫られる。AIのシステム開発会社だけでは手に負えないケースがあり、開発が頓挫することも少なくない。
ベンチャー企業のイクシス(川崎市)は、こうした課題を打ち破ろうと開発に取り組んでいる。「土木構造物の点検では床版や橋桁の裏側など、市販のドローンやカメラで撮影しにくい箇所が多い。ソフトウエアとともに専用の機械の開発が必要になる。ロボットとAIの両方の開発を手掛けていることが自社の強みだ」と、同社の山崎文敬代表取締役は話す。
ロボット専門のメーカーだった同社は、十数年前からインフラの維持管理事業に参入。ロボットとAIを組み合わせたサービスを民間のインフラに導入してきた。
18年9月からは、土木研究所の「AIを活用した道路橋メンテナンス効率化に関する共同研究」にロボット開発企業として唯一参加。その他、国土交通省が点検の効率化に向けて進める「AI開発支援プラットフォーム」の開設に19年9月から携わっている。
公共インフラの点検でも同社の技術の実用化を目指す。例えば、同社が量産体制を整えて20年に販売やレンタルを始めるワイヤつり下げ型目視点検ロボット「Rope Stroller」は、橋脚の間などに架設したワイヤにぶら下がって移動しながら構造物を撮影する。
風などでロボットが傾いてもカメラが一定の向きを保てるようになっており、AIが解析しやすい画像データを得られる。ドローンで橋やダムの写真を撮る場合は、風に弱く、長時間の連続飛行が難しいなどの課題があった。
「どんなにすごいアルゴリズムがあっても、解析するデータの質が悪ければ意味が無い。良いデータを得られるロボット作りにこだわっている」(山崎代表取締役)
20年度には、ワイヤつり下げ型のロボットで構造物を撮影した写真から構造物の3次元モデルを構築、コンピューター内で損傷を見つけたり管理したりする新たなサービスを、凸版印刷と共同で始める方針だ。
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