少年時代、夏も冬も暇さえあれば駅前の書店に立ち読みに行っていた私ですが(書店のおじさん、ごめんなさい!)、公立の図書館はどちらかというと苦手でした。なんというか、あの子どもを寄せ付けない静けさ、本当に読みたい本の探しにくさ……。私と似たトラウマを持つ人にとって、今号(2018年8月23日号)の特集「攻略! ニュータイプ建築」で紹介したいくつかの図書館は、目からウロコかもしれません。

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 特集の冒頭を飾るのは、宮崎県都城市の中心市街地に今春開館した「都城市立図書館」です。この図書館、実は既存の商業施設「都城大丸センターモール」をコンバージョンした建物です。

ショッピングモールを改修し、4月28日に開館した都城市立図書館。時計塔は既存のものを生かした。広場にあった既存のエスカレーターを撤去して、2またの階段を架けた(写真:イクマ サトシ)
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 コンバージョンは珍しいけれど、図書館がなぜ「ニュータイプ建築」なの? そんな声が聞こえてきそうですので、説明します。いや、活字好きの1人として、説明させてください(笑)。

 「図書館」という建築タイプは、欧州では紀元前からあったそうです。もともとは貴重な手書き資料の「収集と保管」が目的で、それを身分の高い人や研究者に限って公開していました。15世紀にグーテンベルクが活版印刷を発明して以降、「一般の人も見られる」図書館が増えていきます。それでも主目的が「資料の収集と保管」であることは長らく変わりませんでした。

 例えば、有川浩氏の著作「図書館戦争」で有名になった「図書館の自由に関する宣言」(図書館協会の綱領)の第1項は、「図書館は資料収集の自由を有する」です。資料の閲覧は第2項で触れられていますが、「図書館は資料提供の自由を有する」という書き方であって、そのためにどんなサービスを提供するのかは書かれていません。

 さて、そうした2000年以上の歴史を持つ“知の巨塔”がここ10年ほどの間に激変してきました。その最先端ともいえるのが、前述した都城市立図書館です。実は私も旧都城市民会館の現状を取材した際に、開館間もないこの図書館を見学しました。入った瞬間に、「負けた」と思いました。人口16万人の地方都市だったらこのくらいのレベルの図書館だろう、という自分の偏見へのざんげです。

 館内のどこを見ても、利用者の居心地の良さを徹底的に考えた空間となっています。想像ですが、これは既存施設が「利用者ファースト」でつくられた商業施設であったから実現できた建築で、同じものを新築でゼロからつくろうとしたら相当難しかっただろうと思われます。

広場を囲むように設けた書架。書架の配置や書籍の重さを調整して荷重を抑えた(写真:イクマ サトシ)
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1階で、商店が並んでいた幅広の通路を改修した部分(写真:イクマ サトシ)
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2階北東に新しく開けた窓と、自習スペース。館内では、窓や壁に向かって数多くの自習スペースを用意した(写真:イクマ サトシ)
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 この図書館は、子育て支援施設など計8施設で構成する都城市の中核施設「Mallmall(まるまる)」のコアとなる施設です。内部もさることながら、さらにびっくりするのは、道路をまたいで屋根を架け、図書館から複合施設、国道沿いの商店街まで動線をつないでいることです。

敷地を北側から見た様子。道路をまたいで屋根を架け、図書館から複合施設、国道沿いの商店街まで動線をつないで回遊性を高めた(写真:日経アーキテクチュア)
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図書館からまちなか広場越しに複合施設を見る。道路をまたいで屋根が架かる(写真:日経アーキテクチュア)
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 この異なる公的機能を「つなぐ」という役割が、ニュータイプ図書館と従来型図書館を分けるポイントです。つなぐならば「コミュニティー施設」をつくればいいではないかと思われるかもしれませんが、そういう施設を積極的に利用するのは「交流好き」の人です。図書館は、そうではない人も引き付けます。そして、重要なのは「分野を問わず、あらゆる関心に門戸を開いている」ということです。例えば、子育て支援施設の利用者には子育ての本を、ダンス練習場の利用者にはダンス関連の本を手に取りやすくする、といった施設配置が可能です。我々の造語ですが、こうした「つなぐ役割」を重視した図書館を「ハブ(結節点)型図書館」と名付けました。詳細は、特集の「動向 図書館が背負う地域の未来」をご覧ください。