であるなら、Apple Watchも同様の認定を取得すればよいだけのように思えるのだが、話はそう単純ではない。心電図機能が有効化されたApple Watchが医療機器としての認定を受けストアの店頭に並ぶためには、医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの審査や許可を受けたり、各種登録を実施したりする必要がある。しかし、機器認証から販売に至るプロセスについて詳しいある関係者は、そうした手続きについて「新規参入事業者にとって三重苦と呼ばれている」と苦笑する。アップルにとって、次の3つのハードルが待ち受けているのだ。

(1)医療機器等外国製造事業者の登録申請
(2)医療機器認証番号の取得
(3)管理医療機器及び特定保守管理医療機器の販売業、貸与業の許可申請

 それぞれのルールをクリアするためには煩雑な手続きと審査が待ち受けているという。例えば、(3)をクリアするためには、Apple Watchを扱う販売店自身に医療機器販売事業者としての許可申請が必要だ。加えて、管理医療機器営業管理者に該当する資格を持ったスタッフを常駐させなければならない。

 その他、前述のハードルをクリアするためのルールや条件を列挙すると、あまりに複雑で多岐にわたり、素人の筆者が付け焼き刃の知識で書いてしまうと、間違った情報を伝えてしまう恐れがある。そこで、医療分野のあるアナリストの説明をそのまま引用することでその難しさをご理解いただこう。

 「新規参入事業者が製造事業者の登録を経て、前例のない医療機器を持ち込み、これら三重苦をクリアするためには、かなりのコストと年単位での時間が必要になるのではないか。Apple Watchのような新規性の高い(類似製品が存在しない)機器の場合、実際に使うと、どのような効果や副作用があるかを日本の医療機関などと組んで治験データを集める必要があるだろう。また、ハードウエアやソフトウエアのバージョンアップの際には再申請が必要になる」という。まさに三重苦どころか、四重苦、五重苦といった様相を呈している。

エンタメの一種として有効化する方法はあり得るか

 2018年10月に調査会社のIDC Japanが公表した「2022年までのウェアラブルデバイスの世界/国内出荷台数予測」によると、2018年の国内における腕時計型スマートウオッチの出荷台数を56.6万台と予測している。この中にはAndroid端末やWear OS端末も含まれているため、Apple Watch単独での正確な出荷台数は分からないが、仮に2割とすると約11万台だ。2割としたのは米IDCの調査によると、2018年第2四半期の全世界の出荷台数シェアでApple Watchは17.0パーセントだったからだ。

 全世界で年間2億台以上というiPhoneの規模感からすると、アップルにとって11万台は0.06パーセントと誤差にも満たない数字だろう。しかも、その中の1機能にすぎない心電図のために、企業としてそれだけのコストや時間、リソースを割いてまで、日本で使えるようにするだろうか。

 もちろん、オムロンやテルモといった日本のメーカーが製造・販売する家庭向け心電計の市場規模も決して大きくはないと思うが、オムロンやテルモにとって医療機器の分野は、重要な企業ドメインの1つである。それだけに(1)や(3)のスキームは、既に確立済みだ。

 (2)の取得にしても、機器としての前例があるわけだし、これまでの日本の医療機関との付き合いの中で様々な治験データを取得する関係を構築していることは想像に難くない。「こういうメリットがありますよ。人体に害はありませんよ」というエビデンスの提出も困難ではないだろう。スマートフォンやパソコンの製造を本業とするアップルの1製品と、日本の専業メーカーの心電計を同列に語ることはできないと思う。

「洞調律」「心房細動」などの表示が出るだけに、エンタメ機能として販売することは、はばかられるかもしれない
(出所:アップル)
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 見方を変えて、Apple Watchの心電図機能はエンターテインメント機能であってゲームや占いの一種と見なせば、医療機器としての認証は不要、という割り切り方はどうだろうか。だが、Apple Watchの心電図機能の場合、アプリ内の表示で「心房細動の兆候」や「洞調律」などという医療用語が使われているだけに、エンタメや占いといった逃げ口上は通用しないだろう。