消費者不在の競争過熱はキャッシュレスを加速しない

 この半年間を振り返っただけでも、スマートフォン決済に関する劇的な動きが相次いでいる様子を見て取ることができる。だがそうした激しい動きの一方で、それを利用する消費者の側が流れに付いていけていない印象を受けるのも、また正直なところである。

 そう感じる理由の1つは、事業者が短期間のうちに増え過ぎたため、利用者の理解が進んでいないことだ。消費者の立場から見た場合、これだけサービスが多いとどれを使えばいいのか分からなくなってしまう。もちろん複数のサービスを利用することは可能だが、それはサービスごとお金が分断されてしまうという大きなデメリットをもたらすだけに、決して好ましいものではない。

 そしてもう1つは、スマートフォン決済サービスに登録する際の複雑さだ。各社の還元キャンペーンを見ると、スマートフォンに登録したクレジットカードを使って決済するよりも、銀行口座と直接接続してお金をチャージし、そのチャージした金額を使って決済したほうが還元率で優遇されることが多い。それはお金をチャージしてもらったほうがサービスから離脱しにくく、継続的に利用してもらう可能性が高まる故だろう。

2019年2月より実施されていたPayPayの「第2弾100億円キャンペーン」は、銀行口座を接続してPayPayにチャージした残高で支払ったときだけ、20%の還元が受けられる仕組みだった。写真は2019年2月4日の「PayPay」記者発表会より(筆者撮影)
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 だが実際に銀行口座と接続するとなると、入力する項目が多い上に、銀行によってはオンラインバンキングへのログインが求められるなど、手間が多く手軽に始められるとは言い難い。手間がかかる理由の1つはセキュリティーであることは理解できるのだが、幅広い層にキャッシュレス決済を普及させるというのであれば、安心と手軽さを両立しながら登録しやすくする仕組みを考えていく必要があるように感じる。

 それ故現在のスマートフォン決済の競争過熱は、キャッシュレス決済にある程度なじんでいて、なおかつお得さに敏感な人にしかメリットを与えていないように見える。本来キャッシュレス決済が必要とされている、お得なキャンペーンにも興味を示さない“現金派”が蚊帳の外に置かれているような印象を受けてしまう。スマートフォン決済導入の本来の目的であるキャッシュレス決済を普及させるという視点で言うならば、どこかのタイミングでお得さよりも、分かりやすさの追求に舵(かじ)を切る必要があるのではないだろうか。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。