テクノロジーだけでは解決できない利用者のモラル

 そうしたシェアサイクルに関する問題は、中国だけに限ったものではない。例えば筆者が先日取材で訪れたフランス・パリでは、市営のシェアサイクル「ヴェリブ」が展開されているほか、「LIME」「BIRD」などのスマートフォンを通じて利用できる電動キックスケーターのシェアリングサービスも進出しており、多くの人が移動手段として利用している様子を見て取ることができた。

 だがそのヴェリブに関しても、やはり破壊や盗難などの被害を多く受けているのに加え、メンテナンスが間に合っておらず故障したままの自転車が多い、電動アシスト自転車の数が少ない、など不満も多いようだ。実際現地の人からも、ヴェリブの事業は「順調ではない」との声を聞いている。

 また、ヴェリブは専用の駐輪場に返却するシステムであるため乗り捨ての問題は少ないが、キックスケーターのシェアリングでは自由に乗り捨てができるため、市内の至るところにキックスケーターが乗り捨てられている状況だった。中国のシェアサイクルと比べ数は少なくそれほど目立つわけではないものの、今後数が増えてくれば社会問題としてクローズアップされることも十分考えられるだろう。

パリでは電動キックスケーターのシェアリングサービスも多く利用されているが、乗り捨て可能なことから数が増えるにつれモラルの問題が懸念される。写真は2019年3月、フランス・パリにて筆者撮影
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 中国でシェアサイクルが成功を収めたように見えたのは、そうしたモラルの課題がクローズアップされていなかったが故といえる。実はテクノロジーだけではそうしたモラルの問題を解決しきれておらず、それを解決するための策を打たなければシェアサイクルでビジネスを成立させるのは難しいということが、最近の動向から見えてくる。

 利便性を高めながらもモラルの問題をクリアするには、シェアサイクル用の駐輪場を密に整備し、なおかつ利用者に正しい使い方を促す仕組みを用意する必要がある。だが、それには大きなコストがかかる。特に放置自転車対策に積極的であるなどモラルに厳しい日本においてシェアサイクルを大規模に展開するには、なおさらコストがかかると考えられる。それだけのコストに見合った利益を得られるのか、という点には疑問が残るというのが正直なところだ。ゆえに日本でシェアサイクルが広く利用される移動手段になるかといえば、現状では難しいのではないかと筆者は考えている。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。