明確な成功事例が見えにくい5Gの時代

 なぜ、携帯電話事業者はベンチャー企業に対する出資で、シナジーだけでなくリターンも求めるようになってきたのか。1つには、携帯電話事業者がベンチャー企業への投資に力を入れ始めてから時間が経っており、投資だけでなく回収という具体的な成果が求められるようになってきたことが考えられる。

 もう1つの要因として挙げられるのが、5G(第5世代移動通信システム)時代を見据えた市場の変化である。そもそも携帯電話事業者がベンチャー企業への投資に力を入れるようになったのには、フィーチャーフォンからスマートフォンへの急速なシフトが大きく影響している。

 フィーチャーフォン時代は携帯電話事業者自身がネットワークだけでなく、端末やサービスなど全てをけん引して成長してきたが、そうした手法がスマートフォンの時代には通用しなくなった。そこでスマートフォンに適した新しい技術やサービスを模索するべく、ベンチャー企業との接点を増やすため投資に力を入れるようになったわけだ。

 しかしながら今後5Gの時代に入るとIoT(インターネット・オブ・シングズ)の概念が広まり、スマートフォンだけでなくより多くのデバイスに通信機能が搭載されるようになる。それはビジネスチャンスの拡大につながる一方で、これまでのようにスマートフォン関連の企業にさえ集中投資していれば成功に結び付きやすい時代ではなくなることも、同時に意味している。

 そうした明確な成功が見えにくい時代には、これまでのようにファンドの規模を競い出資先を増やし続けるのではなく、ポートフォリオを適宜入れ替えながら明確なリターンを求める必要が出てきたといえそうだ。5G時代の携帯電話事業者のベンチャー企業支援は、これまでとは大きく違った形になっていくのかもしれない。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。