ベンチャー企業の支援に力を入れる携帯電話事業者だが、最近は既存事業とのシナジーを求めるだけでなく、適切なタイミングで売却し、リターンを求める傾向も強まっているようだ。その理由はどこにあるのだろうか。

リターンを求めるようになったNTTドコモのベンチャー支援

 携帯電話事業者がベンチャー企業の支援を手掛けるようになって久しいが、ここ最近の各社の動向を見ると、支援の姿勢にやや変化が見られるようになってきた。その変化を感じさせる出来事の1つが、NTTドコモの子会社であるNTTドコモ・ベンチャーズが2019年2月6日に実施したイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2019」である。

NTTドコモ・ベンチャーズが出資したHatch Entertainmentが提供する「Hatch」というクラウドゲームサービス。今後、dアカウントで利用できるようになるなどの連携がとられるとのことだ。写真は2019年2月6日の「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2019」より(筆者撮影)
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 このイベントは2018年に続いて実施されたもので、NTTドコモ・ベンチャーズのベンチャー企業支援に向けた取り組みや考え方を示すとともに、出資先企業の事業を展示、紹介していた。そしてNTTドコモ・ベンチャーズはこれまで、NTTドコモと共同で事業を展開することにより、シナジーが得られることを重視して出資を進めてきた。

 現在もそうした考え方が同社の出資方針に反映されているのは確かだ。今回のイベントに合わせて、同社はレンタルスペース事業を手掛けるスペースマーケット、出張撮影サービスを手掛けるラブグラフ、そしてクラウドゲームサービス「Hatch」を展開するフィンランドのHatch Entertainmentの3社への出資を明らかにしている。これらの出資先の取り組みを見ると、いずれも何らかの協業がなされている様子を見て取ることができる。

 例えばスペースマーケットはNTTドコモからネットワークの提供を受けて、レンタルスペースでの音楽ライブ配信のトライアルイベントを実施するとしている。またHatch Entertainmentの場合、dアカウントでログインしてゲームを楽しめる仕組みが設けられるほか、NTTドコモが提供するセットトップボックス「ドコモテレビターミナル」に対応するという。

 だが一方で、同社の投資の方向性を聞くと、必ずしも協業ありきの投資だけではなくなりつつあるように見える。代表取締役社長の稲川尚之氏は「協業ありきでベンチャーが伸びるかというと、パフォーマンスが出ないこともある」と話す。ファンドとしてリターンを求めることも重視するようになったことがうかがえる。

 実際今回のイベントでは、グループ内企業に株式を売却するケースが増えていることも明らかにされている。これはある意味、協業とリターンの両立ともいえる取り組みではあるのだが、出資だけでなくリターンを求める姿勢を明確にしたことは大きな変化といえる。

NTTドコモ・ベンチャーズの投資方針について話す代表取締役社長の稲川尚之氏。同社の社長就任後、出資にシナジーだけでなくリターンを求める姿勢も強めているという。写真は2019年2月6日の「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2019」より(筆者撮影)
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