より具体的な取り組みとして打ち出されているのが、買い物送迎車の実証実験だ。NTTドコモの「AI運行バス」を活用し、「京急ストア」などのスーパーや公共施設などを巡回するオンデマンド型の乗り合いバスサービスを、2019年下期に開始するとしている。

 AI運行バスは、NTTドコモがMaaSの取り組みの1つとして実証実験を進めているオンデマンド型公共交通サービスである。特徴の1つは、乗客がスマートフォンを使って希望の場所と時間、乗客人数などを指定すると、指定した場所にバスを配車できること。もう1つは、乗客の需要をAIで分析し、新たな乗車のデマンドが発生したらそれに合わせた適切な車両や最適なルートをリアルタイムで導き出してくれるなど、効率良く運行できる仕組みが用意されていることである。

 AI運行バスは既にいくつかの自治体で実証実験が進められている。同じ神奈川県内でも2018年10月から12月まで、横浜市内で実証実験が実施された。横須賀市での具体的な実証実験内容はまだ明らかにされていないが、同市が抱える課題などを考えれば、高齢者を中心とした買い物弱者を救済する意味合いが強い実証実験となりそうだ。

オンデマンド型の乗り合いバスサービス「AI運行バス」は既に横浜市などで実証実験が実施されており、横須賀市でもこれをベースとした買い物送迎の実証実験が実施される。写真は2019年1月24日の「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ2019」より(筆者撮影)
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高齢者に適したサービス設計が鍵

 海外とは異なり日本には少子高齢化という非常に差し迫った課題があることから、日本のスマートモビリティーは特に移動手段を持たない地方の高齢者を救済するための方策として、注目されることが多い。ただそうした人たちをターゲットにした場合、収益を見込みにくく民間企業だけでは取り組みにくいだけに、今回の協定のように自治体と一体で事業化を進めていく必要があるのは確かだろう。

 だがそうしたサービスを実現し、高齢者に広めていくうえでは大きな課題もある。真の解決策とも言える自動運転車の実現に多くのハードルがあるというのはもちろんだが、より実現性が高いMaaSによる移動サービスに関しても、AI運行バスなどの取り組みを見るとまだ大きな障壁があるように感じる。

 その障壁とはスマートフォンだ。MaaSはサービスを利用するうえでスマートフォンの利用が前提となっているものが多く、AI運行バスも例に漏れない。確かに通信から決済まで、あらゆる機能がそろっているスマートフォンを用いてサービスを実装したほうが事業者側のメリットは大きい。だが、そこで問題となるのは高齢者はスマートフォンの普及率や利用スキルが低いという事実である。

「AI運行バス」ではバスの予約にスマートフォンを用いるが、高齢者が主な対象となる場合はそれがサービスを利用するうえで障壁となる可能性が高い。写真は2019年1月24日の「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ2019」より(筆者撮影)
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 どんなに便利なサービスであっても、その入り口となるスマートフォンが使えなければ利用してもらえない。それだけに高齢者の利用を主としたMaaSを展開するうえでは、スマートフォン上でアプリを使うという複雑な操作が必要ない、より簡易な形でサービス化を推し進める必要があるだろう。

 だがそうした課題を明確にし、解決策を探るのが実証実験の目的でもある。横須賀市を舞台として多くの実証実験を実施する中で、スマートモビリティーを実現するための課題を解決し、本格的なサービス化につなげていくことを期待したい。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。