一時は停滞傾向にあった、ヘッドマウントディスプレー(HMD)を用いた仮想現実(VR)。だが最近、VRをコミュニケーションに活用した「ソーシャルVR」が盛り上がりつつあり、再び関心が高まっているようだ。ソーシャルVRは、スマートフォンを使うVRにどのような影響を与えるのだろうか。

 ここ数年来、注目を集めるテクノロジーの1つとして挙げられるVR。専用のHMDを装着することで、現実とは異なる仮想空間を体験できることで関心を呼んだが、利用のハードルの高さやコンテンツの不足、そして人工知能(AI)など他の技術に関心が移ったことで、注目度が落ちていた印象は否めない。

 だがそのVRが再び盛り上がりを見せ始めた。その理由は、VRをコミュニケーション用途に活用したソーシャルVRである。ソーシャルVRでは、VR空間上で好みの3Dアバターにふんし、利用者同士でコミュニケーションする。これがここ1、2年のうちにVR利用者の間で人気を高めつつあるのだ。

 これまでVRの用途といえば動画やゲームなどのコンテンツを楽しむことが主だった。それ以上利用の幅が広がりにくいことが、VRの利用拡大につながらない要因となっていた。だがそこにコミュニケーションという新たな要素が入り込んできたことで、利用の幅が大きく広がる可能性が出てきたのである。

 2018年には、ソーシャルVRサービスに力を入れる企業も出てきている。ドワンゴはVR空間でコミュニケーションができる「バーチャルキャスト」というソーシャルVRサービスを2018年4月より提供開始している。2018年7月にはこのサービスを共に開発したインフィニットループと共同で、サービスと同名の企業を設立。この事業に注力していく方針を示している。

ドワンゴとインフィニットループは2018年7月27日に、VR空間上でコミュニケーションや動画配信ができるサービス「バーチャルキャスト」と、同名の会社の設立を発表。ソーシャルVR事業に力を入れていく方針を示している。写真は同日に実施されたドワンゴのVR事業展開 記者発表会より(筆者撮影)
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 もう1つ、ソーシャルVRを盛り上げる要因として、2018年に大いに注目を浴びたバーチャルYouTuber(VTuber)の存在も見逃せない。3Dのキャラクターにふんして様々な動画を投稿するVTuberは、もともとVRとの親和性が高い。それゆえVTuberがVR空間でコミュニケーションしたりライブを披露したりするなどの新たな取り組みが増えており、それがVTuberのファンも巻き込む形で、VRへの関心を高める要因になっているようだ。

黎明期(れいめいき)のソーシャルVR、スマートフォンへの展開は先

 ただソーシャルVRによって起こっているVRの新しい動きは、主に台湾の宏達国際電子(HTC)の「HTC VIVE」や米フェイスブック・テクノロジーズ(Facebook Technologies)の「Oculus Rift」など、パソコン向けに提供されているVR機器に限られている。スマートフォン向けのVRまでには広がっておらず、そうした盛り上がりとは無縁の状況だ。

 より裾野の広いスマートフォンにもソーシャルVRを対応させたいと考えている人も少なからずいるだろうが、当面は難しいと筆者は見る。その最大の理由は、ソーシャルVRは立ち上がってから1、2年程度の黎明期にあり、サービスの洗練がまだ進んでいない分、変化が非常に激しいことだ。

 パソコン向けについては、ユーザーが一定性能のハードやデバイス、そしてそれらをセットアップし利用するスキルを持ち合わせていることを前提にできるため、スマートフォンよりも開発上都合がよい。またパソコンは、アプリを開発・公開するうえでも比較的制約が少なく、自由度が高いというのも、黎明期には大きいメリットになるはずだ。