混戦模様のモバイル決済

 改めて考えてみると、国内企業が日本発のFeliCaベースの電子マネーではなく、中国で人気のQRコード決済に熱心な一方、海外企業がそのFeliCaに積極的というのは不可思議な話でもある。なぜこのような逆転現象が起こっているのだろうか。そこには、国内企業と海外企業の立場の違いが影響していると言えそうだ。

 国内企業がFeliCaに消極的になっているのは、FeliCaベースの「おサイフケータイ」によるモバイル決済が、長年にわたり提供されながらも広く利用されるには至っておらず、失望を招いているためだろう。そもそも、おサイフケータイはNTTドコモが主導していたものであるため、携帯電話事業者の間で取り組みに温度差があるなど、必ずしも全ての企業が熱心だったわけではない。

携帯電話事業者によっておサイフケータイへの対応には温度差があった。実際KDDIの「au WALLET」は、決済インタフェースとしてあえてFeliCaではなく、プリペイド型のカードを採用していた。写真は2014年5月21日のau WALLETサービス開始記念セレモニーより(筆者撮影)
[画像のクリックで拡大表示]

 だがQRコード決済は、中国で広く普及した実績があるというだけでなく、新たに始まったばかりの決済サービスであるため、しがらみもない。このことから、多くの企業にとって自社のサービスが主導権を握るチャンスがある。国内企業が今QRコード決済に熱心になっているのは、中国での「Alipay」「WeChat Pay」などと同様、自ら提供するサービスで日本におけるデファクトスタンダードの座を獲得したいが故と言えよう。

 一方、アップルやグーグルがFeliCaの取り込みに積極的なのは、自社のサービスを世界各国で幅広く展開したいが故だと言える。彼らが各国の零細企業にまで、決済用のリーダーを提供したり、その使い方を教えたりするのは極めて効率が悪い。なのであれば、既に各国に普及している非接触型電子マネーの基盤を取り込むのが近道と考え、その一環として日本では、FeliCaベースの電子マネーの取り込みに力を入れるようになったとみることができる。

 そして国内企業によるQRコード決済への動きと、海外企業によるFeliCaへの動きは同時に進んでいることから、日本国内でQRコード決済だけが人気になるとは考えにくい。スマートフォンのOSを握るアップルやグーグルの影響を強く受け、FeliCaベースの決済も従来以上に使われる可能性が出てきた。モバイル決済に関する動向は一層混戦の様相を呈していくと言えそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。