ルイス・カーンが教べんをとるペンシルベニア大学大学院に進学した香山壽夫氏は、冷たい物体ではなく、人間を包み込むような空間について学び、建築への考え方が大きく変わった。留学後、その学びを実践する機会に恵まれ、苦労しながらも、最初のプロジェクトである「九州芸術工科大学」を完成させる。(全3回のうちの第2回)

香山壽夫氏(写真:花井 智子)
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 アメリカでは9月から授業が始まるので、2カ月前の7月にはアメリカ西海岸に入って、40日くらいかけて東側にあるペンシルベニア大学(以下、ペン大)まで横断しました。

 途中、フランク・ロイド・ライトの建築を見たり、シカゴ派の建築を見たりと、寄り道をしました。なかでも、南西部のプエブロ族(アメリカの先住民)に出会えたのが印象に残っています。バスを降りたら、自分と似たような顔をしているので(笑)、向こうから寄ってくる。土でつくられた彼らの家を見せてもらい、スケッチをする。そんな旅でした。

香山氏が描いたプエブロ族の住居のスケッチ(写真:香山壽夫建築研究所)
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 ペン大に着いてから、いよいよカーンの授業が始まりました。特に記憶に残っているのが、最初の授業です。

 彼は冒頭に「What is your question?(君たちの質問は何かね)」と言った。みんな、びっくりしてしまった。普通は先生が何かを言ってから、質問を募りますから。そして、カーンは「A good question is always greater than the most brilliant answer.(良い質問は、最も優れた答えよりも、常に重要だ」と続けました。わざわざ教わりにきているのだから、質問があるだろう、ということだったのです。

 まるで禅問答のようですが、そういうことだけではなく、カーンはとても具体的な指導もしてくれました。カーンのスタジオのすぐ下に図書館がありましたから、何かの説明をするときに、すぐに図書館から本を取ってこさせて、話の題材にしてくれました。ペン大は、フランスの美術学校エコール・デ・ボザールの流れをくむ大学なので、図書館には古典的な資料もたくさんあったのです。例えばカーンは、ローマ皇帝ハドリアヌスのヴィラをもとに、空間に光が及ぼす作用などを語ってくれました。

 僕にとっては、愛読していた「日本古建築提要」(天沼俊一著、1948年)の延長にある出来事です。具体的なものを通して、空間を学ぶことができ、目が覚めるような思いでした。

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