ドイツの北西部に位置するビーレフェルトでは、職人不足に悩んでいた。その対策の一つとして、老朽化が進み、かつ点在していた手工業協会の事務や訓練施設を統合し、6400万ユーロをかけて宿泊施設なども含む2万2000m2のキャンパスハンドヴェルクを新設した。a|sh sander.hofrichter architekten設計事務所は様々な視点から、持続的に優秀な職人を育成できる施設を計画した。

ビーレフェルト手工業会議所のキャンパスハンドヴェルク(写真:a|sh architekten, Markus Bachmann)
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 ドイツでは建築業界の好景気と、若者が肉体労働を避ける傾向が重なり、ここ数年、職人不足が深刻化してきた。これを原因とする施工遅延や建築費の高騰が住宅不足に拍車をかけている。そのため、職人不足に政治的な対策が求められるようになっている。こうした一連の動きの中でキーマンとなるのが手工業会議所だ。

 ドイツで手工業会議所が誕生したのは中世となる。当時はZunft(ツンフト)と呼ばれる組合として、組合員に対して商売の内容や製品の質などを取り決めていたが、マイスターや職人の数までも制限していたことから、権力も強く、汚職もはんらんしていた。

 当時の見習いは、先輩にあたるマイスターや職人(Geselle、ゲゼレ)から、日常業務で指導を受けたり、口頭で技術や知識を伝えられたりして職業を学んでいた。つまり、もしマイスターが間違っていれば、間違った技術や知識を引き継いでしまうシステムになっていたのだ。

 こうした状況を打開するために、120年前に手工業会議所が誕生した。会議所と同時に、現在でも使われている「デュアルシステム」もつくられた。デュアルシステムとは、日常業務での訓練制度と、理論などを学ぶ教育制度だ。当時の法整備によって、手工業会議所には業界内の事業者に加入を義務付けた。教育制度を統一することで、職人のクオリティー向上のベースも形成した。

 そもそも手工業として位置づけられるものは多種多様だ。大工、温熱設備、電気、塗装、板金、調理、自動車整備から精肉業者まで含まれる。会議所の役割は、これらの業種が政治的に支援を受けられるよう、国への働き掛け、人材育成制度の整備、経営者のスキルアップ、企業立ち上げのサポートなどだ。特に、中小規模の事業者が単独では実現できないことを遂行するのが活動の核となっている。

 手工業界での人材は、見習い、職人、マイスターの3段階に分けることができる。手工業界への道を選択した若者は、まず見習いとして施工業者などの下で仕事を覚える。こうした日常業務での実務に加え、専門特化した訓練を会議所で受けることによって、勤務先の業務やノウハウのレベルに依存することなく、多様な技術を身に付けることができる。

 デュアルシステムに基づく職業学校では、専門理論の他、語学や政治経済、スポーツといった授業も行う。職業訓練は平均して2~3年半かかり、手工業会議所の試験に合格した見習いが職人(ゲゼレ)と名乗り、その職業を担うことが許される。

 1人前の職人として仕事を始めた後でも、業界内で起業したり、技術力を高めたりしたい場合はマイスターの道に進む。講座は手工業会議所で行い、受講だけの場合は1年程度、仕事をしながら受講する場合は2~3年程度が必要となる。講座では高等の専門実務や理論だけでなく、経営、見習いや職人を教育するためのノウハウ、法的関係の知識を習得する。

キャンパスハンドヴェルク内訓練施設(写真:a|sh architekten, Markus Bachmann)
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