トヨタ自動車は2018年1月に米国ラスベガスで開催された「2018 International CES」で、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)への注力を宣言。そのための電気自動車(EV)プラットフォーム「e-Palette Concept」を発表した。

 MaaSはトヨタに限らず、大手自動車メーカーがこぞって注力し始めた新分野で、自動車業界のあり方を大きく変えていく可能性がある。今なぜこのような流れが生まれたのか、そしてこの流れは自動車業界の将来について何を示唆するのだろうか。

 モノづくりを生業とするメーカーがサービス分野に注力するという試みは一見新しそうだが、コンピューター業界などでは20年以上前からある動きだ。例えば米IBMはかつて、メインフレームからパソコン、その周辺機器に至るまでのハードウエアを独自に開発し、主力製品としてきた。そんな同社も1992年度決算で約50億米ドルもの巨額赤字を計上したことをきっかけに、事業の主体をハードウエアからソフトウエアやサービスへ転換した。独自のシステムやOSによる顧客の囲い込みをやめ、オープンシステムを用いたシステムインテグレーターへと大きく舵を切った。

 同社はハードウエア事業縮小の過程で、プリンターやHDD、パソコンなどの事業を次々と売却した。そのたびに、ハードウエア主体のIBMになじんできた筆者は度肝を抜かれる思いだった。それほどまでに同社の経営方針は徹底されていたが、決断当時、そのいずれもが英断だっただろう。

 メーカーによるサービス事業へのシフトチェンジという点では、こうしたIBMの歩みと自動車メーカーによる昨今のMaaSへの注力には似た背景があるように思う。

 注目したいのは「独自システムによる顧客の囲い込み」という点だ。この戦略は、自社のハードウエアを差異化する上ではしばしば有効だが、ユーザーにとってはデメリットとなる場面が少なからずある。そのハードウエアに閉じた形で使用している場合は問題なくても、外部との接続や第三者による汎用サービスを取り込む際には、システムの独自性がかえって支障になり得る。

 実際、カーディーラーからは「スマートフォンと接続できないような新車は売れない」という言葉を聞くようになった。車載情報システムの昨今の動向を見ても、米AppleのCarPlayや米GoogleのAndroid Autoといった、自動車メーカーの独自システムよりも機能が豊富で、多彩なアプリケーションを利用できるものが登場している。スマートフォンに慣れたユーザーが後者を選ぶのは必然の流れ。その機能を当たり前に使えることが、新車選びの重要な条件ともなりつつある。

 このように、自動車業界もハードウエアが最重要視される時代ではなくなってきた。「CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)」こそが次世代のクルマの重要機能とされ、ハードウエア単体の機能を訴求する時代は終わりつつあるのだ。

 先に触れたIBMがサービス事業を重視し始めた時代は、コンピューターのダウンサイジングや水平分業がキーワードとなっていた時期と重なる。米Microsoftや米Intel、米Sun Microsystems、米Oracleといった水平分業のリーダー企業群が台頭し、メインフレーム市場を侵食し始めた時期である。

 そうしたダイナミックな変化が起きたコンピューター業界に比べると、自動車業界では今のところさほど目立った変化は見られない。だが、兆しは既にある。AppleやGoogleが車載情報機器分野に進出してきたことはその一つ。これらの企業が自動運転の実証実験を積極的に進めており、そこにEVを用いていることなどもそうだろう。

 今後、自動車メーカーはこれらの企業をパートナーとして迎えるか、自らの事業領域を侵す敵対勢力と見なすかの見極めを迫られる。現時点では大半の自動車メーカーが前者を選択しているようだが、これらの企業が良きパートナーのままでいてくれるかどうかは不透明だ。

 良くも悪くも、AppleやGoogleのような存在が自動車業界のこれまでの慣習や秩序を大きく変化させていく可能性は高い。実際、CASEが次世代の重要機能と見なされるようになったのも2社の働きかけによるところが大きい。地殻変動は既に起こりつつある。

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