昨年9月にサラリーマン生活に終止符を打って以来、通勤をしなくなった代わりにテレビを見る時間が増えた。テレビ画面の向こうで繰り広げられている国内外の政治劇は、半導体などハイテク業界とは無縁のようでいて、中には無視できないニュースも飛び込んでくる。

 米大統領のトランプ氏は4月初旬、中国からの輸入品約1300品目に25%の関税をかける方針を表明した。ここには携帯電話機やパソコンは含まれないが、テレビや自動車、電子部品などが含まれるという。

 トランプ氏は「米国企業に対し、中国企業への技術・知財の移転を強要する中国の政策に対応する」のが目的だとコメントしている。だが、例えばテレビや電子部品を考えた場合、米国企業の技術・知財が中国企業のターゲットになっているという主張には、正当性を感じにくい。自動車についても、EV(電気自動車)で中国に攻勢をかけられる前に関税障壁を作っておきたい、というのがトランプ政権の本音ではないだろうか。携帯電話機やパソコンが対象に含まれなかったのは、米国企業の製品が生産委託先を通じて中国で生産されていることが多いためだろう。

 テレビについて、中国からの輸入品に関税をかける狙いとは何か。米国企業は軒並み、1990年代までにテレビの生産から撤退している。2002年に創業したVIZIO社は例外だが、同社はファブレス企業で、2016年には中国LeEco社に買収された。結局、米国内でテレビを生産している企業は1社もなく、輸入品に関税障壁を設けたところで恩恵を受ける企業は存在しないだろう。米国の消費者が割高なテレビを買わされるだけのことではないか。

 電子部品に関税をかけることに至っては、さらに理解ができない。電子機器の生産に欠かせない電子部品に関税をかければ、米国内での機器生産コストがこれまで以上に割高になり、コスト競争力の低下に拍車がかかるだろう。そもそもトランプ政権は、米国内に製造業を回帰させたくてさまざまな政策を打ち出しているはずであり、電子部品の輸入制限はそれと矛盾するようにしか見えない。

 トランプ氏は3月には、Broadcom社によるQualcomm社の買収提案に対する禁止命令を出した(関連記事)。「国家安全保障上の観点から」というのがその理由である。

 Broadcom社は登記上の本社をこれまでシンガポールに置いてきたが、実態としてはカリフォルニアを本拠地とする米国企業である(2018年4月には登記上の本社も米国に移転)。にもかかわらず、Huawei社との関係などを理由に、同社と中国との関係の深さを指摘する声がある。そんなBroadcom社がQualcomm社を買収すれば「5Gを中国に牛耳られる」という論理なのだろう。

 クラウドインフラ向けソリューションを得意とするBroadcom社は、確かに中国市場で多くの実績を上げており、中国政府関係者とも深い人脈を築いているようだ。しかし、だからと言ってこの買収提案が、国家安全保障上の観点から好ましくないとすることの根拠は乏しい。何か他に、真の理由があるのではないかと勘繰ってしまうような禁止命令だ。

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