「理屈じゃないの、野球は。ピッチャーが点を取られずに抑え、1人のバッターが1点だけ入れれば、野球は勝つの。実にシンプル」

 「野球をテクノロジーする」シリーズのオオトリには、現役時代に前人未到の400勝という成績を残されたスター選手で、引退後は指揮官としてロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)を初優勝に導いたアスリート、金田正一元監督にご登場願います。

 長時間にわたる取材の中、筆者の理屈っぽく偏った質問に対し、嫌な顔一つせず回答し、かみ砕いて説明してくださり、まるで学生を諭す師のようでした。その言葉は、野球というフィルターを通して「シンプルに、潔く、ベストを尽せ」と人生を語っているように、日々混沌の中を生きている筆者には感じられました。

 終始炸裂した金田節の面白さが筆者の筆によって半減しないことを願いながら、お届けします。

金田 正一   ロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)元監督
 1950年国鉄スワローズに入団、投手として活躍。1964年読売ジャイアンツに移籍、1969年10月10日に日本球界初の通算400勝を記録。引退後に解説者、タレントとして活動した後、ロッテオリオンズ監督(1973~1978年、1990~1991年)を務め、1974年にはリーグ優勝、日本一を達成した。1988年に野球殿堂入り。1978年に日本プロ野球名球会を設立、1981年から2009年まで代表取締役を務めた。現在はフリーの評論家、千葉ロッテマリーンズ取締役。
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偉大なピッチャーでありながら、ホームランを通算38本も打つバッターでもいらっしゃった。元祖二刀流ですよね。早速ですが、バットのスペックを教えていただけますか。

 スペック? 数字は分からない。重心の位置なんか全くこだわらないし、メーカーも関係ない。そんなことにこだわっていたらダメ。他人のものでも何でも、打てなきゃプロじゃない。振りやすければいい。もし、長かったら短く持てばいいし、太くても細くても何グラムでも、対応できる人が本当のプロだよ、神経質にこだわると、中途半場な選手にしかなれないのだよ。長嶋も王も、自分と同じだったと思うよ。

…確かに「弘法筆を選ばず」といいますから。でもそう言ってしまったら、これまで積み重ねてきたバットの取材は何だったのかと…。徒然草にも「達人ほど道具の些細な違いを敏感に感じ取る」という話もあるわけですし、本当に1つでも、こだわりはなかったですか?

こだわり? ない、ない。

*       *       *

 筆者のボヤキは、金田氏に明るく笑い飛ばされました。

 蛇足ですが、400勝という数字は今後も、破られるのがほぼ不可能だということを初めて知りました。例えば、記憶に新しいマー君(田中将大投手)の年間24戦全勝(2013年)。すごい記録ですが、400勝はこれを20年近く続けるのと同じくらい難しい。故障と闘う田中選手の現状をみても、ケガもなく20年同じ記録を出し続けるのが容易でないのは自明です。まして金田選手は、34歳という若さで引退なさいました。今よりもプロ野球の試合数が少なかった時代の記録ですから、もう神の領域の仕事というしかありません。

 だからこそ、もう終わろうとしている平成時代ではなく、昭和に活躍されたアスリートに道具へのこだわりを伺いたかったのですが。一笑に付されてしまったわけです…。

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