これまで野球用具メーカー開発担当者への取材をもとに、バットの進化についてお伝えしましたが、これから数回にわたって実際にバットを使用している千葉ロッテマリーンズのアスリートに、ご自分のバットをご持参いただき、「打撃」を軸に語っていただきます。

 ご登場いただくのは、プロ野球一軍監督として日本で唯一メジャーリーグ経験を持つ井口資仁監督、首位打者を2度も獲得した球界を代表する好打者・角中勝也選手、2000本安打達成が目前に迫る「幕張の安打製造機」福浦和也選手、若きチームキャプテンの鈴木大地選手、ルーキーながら開幕からショートのレギュラーとして活躍、新人王候補にもあがる期待の星・藤岡祐大選手、そして現1軍打撃コーチの金森栄治氏の6人です。シーズンの最中にもかかわらず、取材をご快諾いただきました皆様と関係者の方々に感謝いたします。今回は、角中選手にお話を伺います。

 取材をお願いした6人のアスリート全員が少年野球ご出身でいらっしゃる中で、特に角中選手はプロ入りを絶対に実現させるという信念を持つお父様に、3歳から野球の英才教育を受け厳しく育てられたと伺っていました、期待を背負い父子同じ夢を実現させるため、想像を絶する努力を積み重ねてきた人はどんな雰囲気を醸し出すのか、興味を持っていました。

 インタビュー室に入ってこられた角中選手は、心身の強さをユニフォームの奥に秘めながらも覆い隠しきれない気迫がにじみ出し、取材中の飾り気のない口調にも匠の技を持つ職人のように静かに燃える闘志が見え隠れしている、そんな選手でした。

角中選手と筆者   写真:尾関裕士
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角中 勝也   千葉ロッテマリーンズ外野手
高知ファイティングドッグスから2006年ドラフト7位で千葉ロッテマリーンズに入団。2008年4月の楽天戦でプロ初本塁打を記録。この本塁打は四国アイランドリーグからプロ野球へ入団した選手として初の一軍公式戦本塁打となった。その後も巧みなバットコントロールを武器に着実に成長し、2012年に首位打者(石川県出身のプロ野球選手としては松井秀喜以来)を獲得。2016年には2度目の首位打者と最多安打に輝いた。オールスター出場は3回。ベストナイン2回(独立リーグ出身者としては初選出)。また2011年8月28日には5打数5安打を記録している。

現在使われているバットのスペックを教えてください。

「メーカーはデサントで、『角中モデル』と名前がついています。素材はメープル。長さは33.5インチ、重さは890gです。重心は上の方に置いてあります。バットを短く持つので、下に重心を置くと勝手にヘッドが返ってしまうのでそれを避けるためです。バットのスペックは、プロに入って30回くらい変えてきました」

 プロは、背が低いとか太っているなどの体格に関係なく、34インチか「3半」(33.5インチ)を使うのが普通だそうです。

写真:尾関裕士
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現在使用しているバットを選んだ理由はなぜですか?重要なポイントは何でしょうか? プロの選手はバットについての情報の集め方やメーカーの開発者への希望をどのように出すものですか?

「このバットは、先輩がたまたま使っていらした『阿部慎之助モデル』を借りてみたら感触が良かったので使い始めたものです。けれど自分には重くて長かったので、軽く短くしました。

そういう希望をメーカーの方に伝えるときは、具体的な数に落とすより感覚で話します。とにかく自分は、ホームランよりヒットを打つタイプのバッターなので、そのフィーリングに合っているこのバットを使っています」

 野球界の常識として、学生時代からさまざまな有名プロ選手のバットを握らせてもらったり貸してもらったりして、自分に合う感覚のバットを選び、長さや重さ、グリップを調整して自分に合わせていくものだそうです。今はもう珍しくなりましたが「お古」という習わしを何となく思い出しました。ちなみに、アイランドリーグ時代は中村紀洋選手から提供されたバットを使用していたそうです。

「メーカーから同じバットが1回に30~40本届きます。実は、握った感覚が1本1本全く違います。同じスペックの同じバットを頼んでいるので数字的には同じなんでしょうが、握ってみると違うとすぐ分かります。違和感のあるバットは試合では絶対使いません」

 このことは、今回取材で伺った全員が異口同音におっしゃいました。握れば瞬間に、1本1本の違いが分かるのだと。さすがプロは違うものです。

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