匿名化技術とは、特定の個人を識別可能なデータを、特定の個人を識別することができないように加工する技術である。全体的な動向としては、特許出願では米国、中国が、論文発表では欧州、米国、中国が目立っている。しかしながら、匿名化技術の適用される事業分野ごとの動向を見ると、日本の優位性が期待できる事業分野もあり、また匿名化技術の評価指標の開発においては日本が先んじているなど、日本が強みを持つ領域もある。今後は、このような強みを持つ領域に引き続き注力しつつ、AI(人工知能)や非構造化データといった時代の流れに対応する技術開発や、高収益の期待できる事業分野への応用などが求められる。

 匿名化技術とは、特定の個人を識別可能なデータ(個人情報)から、特定の個人を識別することができないように、データを加工する技術です。近年、SNSの流行やクラウドコンピューティングの発達に伴い、インターネット上のストレージには、パーソナルデータ を含む膨大なデータが蓄積されています。ビッグデータのように収集・蓄積されたデータに対して匿名化関連技術を適用し生成された匿名化情報は、その利用価値を残したまま個人を特定困難にするものであるため、個人情報に適用される取り扱い上の制約が緩和され、それにより、第三者提供あるいは目的外利用が可能となります。これにより各種データの流通・利活用が促進され、さらには、新たなサービスの創造に資することが期待されています。

 また、改正個人情報保護法では、匿名加工情報の規定の新設、不当な差別や偏見につながるような要配慮個人情報の規定の新設、個人識別符号として、身体的特徴に基づく変換符号(顔特徴情報、指紋特徴情報)と、対象者ごとに個人を特定するために付与される符号(旅券番号、マイナンバー)の2つのカテゴリーを明確化するなど、第三者へのデータ提供に関する配慮が強化されました。

 一方で、これらのデータには機密性を保護するための対策が講じられているものが多いとはいえ、これらの対策が必ずしも万全であるとはいえず、パーソナルデータの漏洩問題がマスコミなどで報じられる事例も後を絶たないのが現状です。特に我が国においては、公的機関や大企業で発生する個人情報流出事件が報道として大きく取り上げられる傾向にあり、プライバシー漏洩への不安からパーソナルデータの流通に不安を感じる傾向が欧米に比べて強いといわれています。

 例えば、平成29年版情報通信白書によれば、パーソナルデータの提供について「とても不安を感じる」の割合は、日本においては比較的高く(24.7%)、「やや不安を感じる(59.4%)」と合わせると8割超であるのに対し、米国・英国・ドイツの3カ国は6割程度で、明確な差があり(図1)、匿名化技術に対する潜在的なニーズは高いといえます。

図1 パーソナルデータの提供に対する不安感
(「平成 29 年版情報通信白書」(総務省)より作成)
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 このような背景の下、特許庁は「平成29年度特許出願技術動向調査」において、匿名化技術に関する特許出願動向を調査し、その実態を明らかにしました(特許庁による調査レポートの概要(PDF形式)こちら)。

 図2に本調査の技術俯瞰図(ふかんず)を示します。本調査では、「匿名化技術」と、秘匿計算・秘密計算、差分プライバシー、パーソナルデータ・サービス、パーソナルデータ・ストア(PDS)や情報銀行など、「匿名化技術」とは異なった手法でプライバシーを保護する周辺技術とを含めて調査対象としました(以下、まとめて「匿名化関連技術」と呼びます)。

図2 技術俯瞰図
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 国内におけるパーソナル情報市場の分野別の市場規模を図3に示します。金融・保険業が6036億円と最も多く、次に、小売業4487億円、宿泊・旅行業4368億円、通信3675億円と続いています。

図3 国内のパーソナル情報市場の全体推計
(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「パーソナル情報保護とIT技術に関する調査 調査報告書」を基に作成)
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