本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第12号に掲載された「データ科学を用いた結晶シリコンの評価」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

近年、材料開発、製造プロセス、科学計測など幅広い分野において、研究開発の方法論は、データ科学の活用による大きな変革期を迎えている。我々は、多結晶シリコンをモデル材料として、データ収集・機械学習・理論計算を連携させ、多結晶材料の普遍的な高性能化指針の確立を目指す新たな取り組みを進めている。本稿では、その第一歩として、多結晶シリコンインゴット中の組織と転位クラスタの3次元可視化など、データ科学的手法を用いた多結晶シリコンの評価について紹介する。

 顕在化する地球環境問題への対応とエネルギー安全性確保の観点から、再生可能エネルギーの大量導入は世界的潮流となっている。その代表格である太陽光発電の導入は、飛躍的な増加が続き、2017年には約100GWの太陽電池が生産された1)。我が国においても、2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、再生可能エネルギーについて、2030年のエネルギーミックスにおける電源構成比率の実現とともに、確実な主力電源化への布石としての取り組みを早期に進めることが明記された。再生可能エネルギーの一番手である太陽光発電への期待は大きい。

 太陽電池用ウェーハは、キャスト法で作製される多結晶シリコンが60%超と最も大きなシェアを占める。キャスト法とは、るつぼ中のシリコン融液を一方向に凝固させる方法であり、生産性に優れる一方で、結晶品質向上が課題である。近年、粒サイズが数mm程度で方位がランダムな多数の結晶粒から構成される、いわゆるHigh-Performance(HP)多結晶が考案され、従来の多結晶と比較して転位密度やウェーハ間の品質ばらつきの低減など、大きな改善がなされた2~6)。しかし、太陽電池のセル構造は、汎用品の裏面全面Al電極の構造から、パッシベーション†1膜とポイントコンタクトを利用したPassivated Emitterand Rear Contact型7)、水素化アモルファスシリコンを接合に用いたヘテロ接合型8,9)、さらにはバックコンタクト型10~13)へと、高効率技術への移行が進みつつある。高効率を指向したセル構造では、ウェーハ品質に対する要請が厳しくなり、HP多結晶でさえも要請に応えきれていない。産業界からは、高生産性と高品質性を両立する多結晶インゴット製造技術が渇望されている。そのような技術開発には、多結晶の品質を低下させる結晶欠陥の明確化と結晶欠陥の発生メカニズムの解明が不可欠である。

†1 パッシベーション 表面や結晶内部などにおける電気的に活性なサイトを不活性化する処理。化学結合形成による化学パッシベーションと、固定電荷などによる電界効果パッシベーションに大別される。

 これまでに、結晶成長過程の「その場観察」14)、複数の単結晶を組み合わせた複合種結晶によるモデル成長実験15,16)、マクロから原子レベルまでマルチスケールでの物性評価・構造解析・構造計算など17)により、多結晶中に存在する特定の結晶欠陥についての検討は数多くなされてきた。しかし、結晶欠陥の1つである結晶粒界を例にとると、マクロな構造パラメータだけでも5次元の組み合わせがあり、その中から特性に影響のある構造を系統的に選び出すことは極めて困難である。このように多結晶材料は、組織の複雑さと粒界の幾何学的な多様性に起因して太陽電池特性への影響因子が明確でなく、普遍的な高性能化指針は確立されていない。そこで我々は、大量の実用多結晶ウェーハに対してデータ科学の手法を取り入れることで、特性に寄与する粒界を選択的に抽出できるのではないかと着想した。最終的には、データ収集・機械学習・理論計算を連携させ、多結晶材料の特性発現機構の根源的な解明、逆解析を駆使した理想的多結晶組織の設計、優れた特性を示す太陽電池用シリコンインゴットの創製を目指している18)

 本稿ではその第一歩として、多結晶シリコンインゴット中の組織や転位クラスタ†2の3次元可視化など、データ科学的手法を用いた多結晶シリコンの評価について紹介する。

†2 転位クラスタ 結晶中の線状の結晶欠陥である転位の集合体。

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