本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第11号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

我々の生活に欠かせない元素である炭素からなるカーボン物質は、特殊な物性を示し、構造と次元により大きく変化する。特に、カーボンナノチューブ(CNT)とグラフェンの光学的・機械的・熱的特性は、基礎・応用の両面から高い関心を集めてきた。物性物理の観点からみると、グラフェンの2次元性、CNTの1次元性は共に1nmほどの究極的な量子閉じ込め効果を生みだす。ここ数年の試料・デバイス作製の発展には目を見張るものがあり、ナノカーボン物質はフォトニクス材料としてのユニークな特性を生かして光検出器や発光素子などデバイスへの応用が近づいている。本稿では、これらの物質の基礎的な性質を振り返り、オプトエレクトロニクスへの応用に向けた最先端研究を解説する。

 1985年に米国ライス大学で発見されたC60フラーレン分子1)や、1990年代初頭にIijimaらによって同定されたカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube: CNT)2)、さらに2004年にGeimとNovoselovによって初めて単層分離されたグラフェン3)、これらナノカーボン物質は、電子を量子力学的に閉じ込める理想的な低次元空間(それぞれ0次元、1次元、2次元)を提供する。ヘテロ接合とナノリソ技術を駆使して作製される半導体量子構造とは異なり、ナノメートルスケールの閉じ込め機構は、これらの物質の結晶構造に自然に内蔵されている。さらに、強じんなsp2共有結合から構成される炭素ハニカム構造は、優れた熱的・機械的性質を有するのみならず、特異なバンド構造を生みだし、それに起因する独特な電子的、磁気的、光学的物性はさまざまな応用が期待されている。

 本稿では、特にCNTとグラフェンの光物性研究およびオプトエレクトロニクス応用に向けての研究における最新の成果について解説する。これらの物質は、低次元系に特有な光との強い相互作用、および電子間相互作用に起因した多様な現象を示すため、凝縮系物理学の観点から興味を持たれている。それと同時に、遠赤外から紫外にわたる超広範囲波長域での強い吸収性は太陽電池や検知器として有望であり、構造や外場に敏感に変化する発光、透過、反射特性は変調器への応用につながる。またナノチューブ研究における近年の試料作製技術の進歩には目を見張るものがあり(第2章)、従来不可能であったような現象の観測と理解が進み、デバイス応用の実現も眼前に迫ってきている。

物質開発における新展開

単一カイラリティCNT

 CNTは単層グラフェンを丸めた構造を持つ。その巻き方によって直径とらせん角が変わり、それぞれの種類のことをカイラリティ(chirality)と呼ぶ。カイラリティは(6,5)や(7,5)のような2つの整数ペアで表され、図1(a)はCNTの構造の幾つかの例を示している。

 CNTはカイラリティによって特性が大きく変化し、半導体型や金属型となったり、図1(b)のように色の変化すなわち光学的性質が変化したりする。合成されるCNTは通常ランダムなカイラリティ分布を持つ。CNTのユニークな性質を利用するためには、複数のカイラリティが混在する状態ではなく、単一のカイラリティに分離することが必須となる。昨今の研究の進歩は目覚ましく、直接制御成長4)や成長後精製5)によって単一カイラリティの試料を得ることが可能となってきた。

図1
(a)CNT の構造例.(b)精製水性2 相抽出法により精製されたDNA分散単一カイラリティCNT の写真8)(Adapted with permission from Ref. 8.Copyright 2016 American Chemical Society).
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 界面活性剤もしくはDNAは、構造の異なるCNTに対して選択的吸着を示す5)。浮力と遠心力とのバランスによって浮力密度の違いを利用した密度勾配超遠心分離法6)、多糖類ゲルという分離媒体への吸着度の違いを利用したゲルクロマトグラフィ7)、親水性の違いを利用した水性2相分離8)などにより単一カイラリティ分離ができる。さらに、最近の研究では直径が同じでも左巻きや右巻きのように巻き方の異なる、いわゆる鏡像異性体の分離もこれらの方法で可能となった6,8)

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