本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第9号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

太陽電池やパワーデバイスの高性能化に向け、シリコン結晶基板の高品質化が求められている中で、有害な残留炭素不純物の低減が課題となっている。そこで、従来法では検出できなかった低濃度の炭素を、電子線照射により発光活性化させ、そのフォトルミネセンスを利用して定量する手法が注目されている。この手法は1012cm-3台に達する高い検出感度をもつ一方、液体ヘリウム温度での測定が必要という障害があった。本稿では、最適化した低波長分散分光計により、扱いが容易な液体窒素温度で、より高速・高感度で炭素定量が行えることを示す。さらに室温においても炭素関連発光を検出でき、定量に利用できる可能性が高いことを紹介する。

 シリコン(Si)結晶中の炭素は、結晶育成中の汚染あるいは原料中の残留不純物として結晶中に取り込まれ、as-grown結晶では格子位置を占め(Cs)、電気的に不活性である1)。しかし、1016cm-3以下の低濃度であっても、結晶中の酸素の析出核として働くことが知られている2)。酸素析出物は、ゲッタリングサイトとして有効利用される一方で、少数キャリヤの再結合中心として働き、ライフタイムを低下させる。したがって、ウェーハの高品質を図る観点から炭素不純物は厄介者として扱われ、低減化の努力が払われてきた。最近では、Si結晶太陽電池の理論限界に迫る高効率化や3,4)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの先端Siパワーデバイスの高性能化において5,6)、さらなる高ライフタイム化が強く求められるようになり、炭素濃度を従来よりもさらに低い1015cm-3以下とすることが求められるようになっている。それを実現するうえで欠かせない技術が、低濃度の炭素定量である。

 従来から一般的に行われてきた炭素定量技術は、Csの局在振動を対象とする赤外吸収分光(Infrared absorption: IR)法であり、(一社)電子情報技術産業協会(Japan ElectroniCsand Information Technology Industries AssoCiation:JEITA)7)およびSEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)8)により標準規格化されている。しかし、Csの吸収帯にSiの基準振動吸収が重畳してしまうために、室温測定の検出感度を1×1015cm-3以下とすることは、現実的に極めて困難である。2次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)は、5×1014cm-3程度までの定量が可能とされているが、限られた専門の分析機関でなければこの値を達成することはできないのが実情である。こうした中で、最近注目されているのが発光活性化フォトルミネセンス(Photoluminescence:PL)法である9~13)。折しも、経済産業省の平成30年度「省エネルギー等国際標準開発」事業の1つとして「次世代パワーデバイス向けシリコン結晶評価技術に関する国際標準化」が採択され、「PL法によるシリコン結晶中の低濃度炭素測定法」の標準化に向けての技術検討が開始されたところである。

 この方法については、中川により本誌でも紹介されているが12)、Si結晶に電子線を照射してCsを電気的に活性化させ、PLで測定するという手法である。検出感度が1012~1013cm-3程度と非常に高いという長所をもつ反面、液体ヘリウム温度での測定が必要であるという課題があった。液体ヘリウムが高価であること、扱いが必ずしも容易ではないこと、さらには半導体プロセスのクリーンルーム内では一般に使用が禁じられていることなどがネックとなっていた。

 しかし昨年、我々はこの炭素起因の発光が液体窒素温度でも検出できることを見いだした14)。検出できたというだけではなく、むしろ液体ヘリウム温度測定よりも高速測定・高感度測定が実現でき、解析も容易であることがわかってきた。本稿では、どんな工夫をしてこの測定を可能にしたか、そしてどのようなメリットがあるのかを紹介する。さらに最近になって、室温測定でも炭素起因と推定されるPL信号の検出に成功した15)。この発光の起源についての考察と炭素定量への応用の可能性についても報告する。

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